なぜカードゲームはインフレするのか

マジック・ザ・ギャザリングしかり、遊戯王しかり、世の中にはいろんなカードゲームがありますが、それぞれに必ず共通することは『カードパワーが新パックごとに上がっていく』という点です。

例えば、私が一番やり込んでいる『シャドウバース』というカードゲームを例にとってみましょう。

こちらは『ファイター』というカード。最初期に実装されていたブロンズレアのカードです。パワーと体力が2で、コストも2。特殊な能力は一切ありません。いわゆるバニラ(無能力)と呼ばれるカードです。

そしてこちらは比較的新しく、後から実装された『自由なる冒険者』というカード。ファイターと同じブロンズレアでコスト/パワー/体力も全く同じですが、『場に出した時、同時に強化カードを出す』という能力を持っています。特にデメリットはありません。

つまり、ファイターの完全な上位互換のカードであり、『自由なる冒険者』を持っているなら『ファイター』を使う理由が全くないのです。これがカードパワーのインフレ化です。

インフレ化はゲームをつまらなくする

このようにカードパワーがどんどん上がると往々にしてゲームはつまらなくなっていきます。

可愛い・カッコいいカードを苦労してゲットしても、半年も経つ頃には『ファイター』のようなゴミカードに成り下がってしまい、モチベーションがダウン。また、カードパワーがどんどん上がることで試合ごとにワンターンキルや早期決着が起きやすくなり、戦いが大味になっていきます。(ゲームスピードが上がることを良しとするか悪しと見るか別れますが)

それを証拠にシャドウバースでもどんどん早期決着のケースが多発するようになっており、最近では3~4ターン目に決着がついてしまうこともザラ。それに伴い、高コストのカードは存在する意味が相対的に薄くなって来ています。

『インフレデュエルマスターズ』と揶揄される遊戯王デュエルマスターズでも度々インフレ化が問題視されており、特にGR召喚というギミックが加わった際はチートカードとまで蔑称されたほどです。

もちろん公式に認められたカードなので試合に勝つ為にはインフレ化した新カードをかき集めねばならず、それによってお金も大量にかかります。

そして苦労して超強いレアカードを集めても、半年後にはもっと強いカードが登場して、所持カードがゴミになっていくのです。これではやる気が削がれますよね。

バトルスピリッツのカード『烈の覇王セイリュービ』はインフレし過ぎた例。
「使用済みのコストが5つ以上あるとき、その全てを使用前に戻すことが召喚コスト」というぶっ壊れ能力を持つ。
発売からわずか一年で大会禁止カードになった。

インフレ化にはメリットもある

しかし、ただゲームをつまらなくさせるなら開発サイドもむやみにインフレ化はさせません。インフレ化にはちゃんとメリットがあるのです。それは以下のようなものです。

  • 環境が流動的になり、新カードが増えることで常に新鮮さを味わうことが出来る。
  • 新パックの売り上げにつながり、開発資金を運営側が確保することが出来る。

特に重要なのは前者ですね。一度強いデッキを作ったらもうずっとそれ使ってれば勝てる、という状態だと代り映えがありませんから、いずれはそれを叩き潰すような『もっと強いカード』が必要になってくるでしょう。これがインフレ化の主な理由です。

この辺はただのカードパワーの底上げじゃなくて、既存のカードに絡めたシナジー効果を発揮するカード、つまり『頭を使って組み合わせると、弱いカードも強くなる』というバランスが最高だと思うのですが、なかなかそうもいきません。(特に骸の王、テメーはダメだ)

ほとんどのゲームには『どのカードも自由に使える』というアンリミテッドルールと『最近発売したカードしか使えない』というローテーションルールがレギュレーションとして存在し、この流動的環境を促進しようとしています。

開発者のコメント

世界で最初のTCGであるマジック・ザ・ギャザリングの開発者は、インフレ問題について以下のようにコメントしています。

 我々は過去20年間のインフレからマジックを維持することについてはかなり良い仕事をしたと考えていますが、我々の目標はマジックを我々が機械の体を手に入れでもしない限りその誰よりも長生きさせること、ひいてはマジックを超音速の宇宙旅行時代のデュエルの到来を告げるぐらい長生きさせることです。

いずれにせよ、我々はマジックをカードパワーの根本的な増加をさせることなく楽しく、興味深く、そして新しくし続けるために取り組み、物事を未来に開いておくことが求められます。未来においてマジックの複雑さが増していくリスクと同じように、カードパワーのインフレはこのゲームを期せずして傷つけます。

このゲームをエキサイティングなものに保つためにパックに入れる新しいカードのパワーを増加させる必要がある場合、その後我々は速やかに過去のカードを時代遅れにして、将来の物事を推すためのさらなる要求を作り出すでしょう。

開発の義務の1つは、セットのカードパワーの拡散により起こる事態を防ぎ、何が強力であるかを絶えず変更してそのカードパワーがコントロール不能にならないようにし、未来へ向かう余地を残すことです。

 我々は毎年違った雰囲気のスタンダードを作るように努力し、絶えず新しい方向にそのフォーマットの方向を変えることに焦点を当てています。我々がブロック内でのシナジーを用意する理由は、新しいカードを入れ替わる2年前のカードより単純に強くしなくてもプレイされる良い立ち位置を確保できるからです。

『イニストラード』を見てみると、最強の相互作用のうちいくつかは墓地関連で、『ラヴニカへの回帰』ブロックの最強のカードのほとんどは金色です。来年のブロックはエンチャントに関係しているので、最強のカードはエンチャントかそれに関係したカードでしょう。しかしそれについて話せるのはもう少し先で、『テーロス』について話し始めることができるときに、それがどのように組み立てられたかをお話しします。

引用元;https://mtg-jp.com/reading/translated/ld/0004146/

つまり、カードパワーがインフレすることは不可避と捉えながらも、常に環境トップが流動的に変わるようにしてインフレを操作し、また同じブロック(パック)内でシナジーを発揮するカードを用意することで、将来また日の光が当たる余地を残しているということです。

やや希望的観測が多いように思いますが、それだけカードゲームの開発というのは難しいものなのでしょう。マジック・ザ・ギャザリングなんて1万枚以上のカードが存在しますからね。それらすべてとバランスを取って、ゲームの穴(無限マナ生成とか)を突かれないようにする為には、並々ならぬ苦労があるのでしょう。

まとめ

本記事では大まかにカードゲームのインフレのメリットとデメリットをご紹介しました。また、多くのカードゲームの開発者はカードパワーのインフレ化を不可避な事象と捉えていることもご紹介しました。

昨今はスマートフォンで手軽に見知らぬ人と遊べるデジタルカードゲームが増えています。今後もより市場が活発になって面白いゲームがたくさん出るといいですね。

ドラゴンクエストライバルス?知らない子ですね…。