『ググればいいじゃん』と言う前に…

近年、インターネット技術は急速に普及し、スマホ一台あればGoogleで何でも調べられる時代になりました。いわゆる『ググる』というヤツですね。

2010年にはたった4%しかなかったスマホの普及率は今や94%にまで上昇しており、現代社会でスマホを持っていない人はほぼ存在しないといって差し支えないでしょう。

何かわからないことがあればサッとスマホを取り出してGoogleで検索。誰しもが経験したことだと思います。いやぁ、便利な時代になったものです。

特に私は生粋の方向音痴なので、Googleマップは特に重宝しています。初めて行く場所でも秒で最適な経路を調べることが出来ますからね。エルデンリングのマップならほぼ暗記してるのに新宿駅の構造は暗記出来ない。何でなんでしょう。(知るか)

ただ、わからないことがあって人に聞くと『自分でググればいいじゃん』ってアッサリ返される時代になったことで、大切なものが失われていく気もするんですよね。今回はそんな雑記。

南極基地の話

かつて極限地帯の南極基地ではインターネットが無かった頃、百科事典を持ち込んでいたそうです。

例えば、日々の生活の中で隊員の一人が『ムクドリってどんな鳴き声してるんだっけ』としょうもない疑問を口にしたとしましょう。百科事典を参照するけど、そこまでは書いていません。

すると夕食時に集まった隊員がアレコレとおしゃべりしながらムクドリについて話し合います。

『スズメ目だからチチチって鳴くんじゃないかなぁ』とか『スズメよりは体が大きいから大声で鳴くんじゃないかなぁ』とか。当然、南極にムクドリはいませんから正解は出ない議論です。

しかしそこでは隊員同士の対話が生まれ、『ああ、この人はムクドリがスズメ目って知ってるんだな、博識だな』とか『この人はムクドリを身近で見たことがあるんだな』とかっていう、他者への理解が深まっていくワケです。コミュニケーションによる相互理解ですね。

南極という閉鎖空間では他者との人間関係は特に重要で、みんなそれを理解しているからこそ、『そんなの分かりようがないんだから無駄な議論じゃん』とバッサリ捨てる人はいなかったそうな。

会話による合意形成は信頼感がアップする

他人と会話をし何らかの合意を形成するプロセスは、相互に信頼感を構築するのに重要です。

例えば『囚人のジレンマ』という思考実験をご存じでしょうか。協力と裏切りの過程を分かりやすくゲームにしたものです。


囚人AとBが留置所で取り調べを受けている。2人は共犯だがそれぞれ別の個室に移動させられ、検察官から次のような話を持ち掛けられた。

  • 本来ならお前たちは懲役5年なんだが、もし2人とも黙秘したら証拠不十分として減刑し、2人とも懲役2年だ。
  • もし片方だけが犯行を自白したら、そいつはその場で釈放してやろう。しかし黙秘してた方は懲役10年だ。
  • 2人とも自白したら、判決どおり2人とも懲役5年だ。

さて、もしあなたが囚人Aの立場だったら犯行を黙秘するだろうか?それとも自白するだろうか?


この問題についての最適解は『自白する』です。囚人Aの立場になって考えてみましょう。

  • 囚人Bが「黙秘」を選んだ場合、自分の懲役は2年か0年だ。だから「自白」を選んで0年の懲役になる方が得だ。
  • 囚人Bが「自白」を選んだ場合、自分 (=囚人A) の懲役は10年(「黙秘」を選んだ場合)か5年(「自白」を選んだ場合)だ。だからやはり「自白」を選んで5年の懲役になる方が得だ。

しかしこの問題、ゲームに反復性を持たせると『黙秘する』という選択がたびたび取られることが分かっています。つまり、この2人がまた出所後に再犯を起こして同じ状況に陥るようなケースですね。それに最適解が『自白する』だからいって、みんなすんなりとそれを選択出来るでしょうか。おそらく出来ないでしょう。

片桐 恭弘(はこだて未来大学)らは、次のように述べています。

他者に対する信頼について山岸俊男 (1998) は,囚人のジレンマゲームを用いて,合理性の観点からは裏切り行動選択が「合理的」となる状況設定にもかかわらず,人々はしばしば「非合理的」な協力行動選択をとるという実験的知見に基づいて,そのような利他的行動の背後に信頼という他者と協力的な協調行動を産み出すための社会心理メカニズムが存在すると主張している。

しかし,現実の人間同士の交流では,何らかの事前インタラクションを伴わずに他者の信頼判断を行うことは少なく,協力/裏切りのような実質的行為選択に至る以前に,言語的・非言語的インタラクションを通じて人々は自分が信頼に値する人物であるという信号を発するし,同時に相手が信頼できるかどうかの判断を行っている。

このように人間同士の相互信頼感構築の機構をとらえるためには会話的インタラクションを無視することは出来ない。

集団内の複数の人間相互に合意を形成することは会話コミュニケーションの主要機能のひとつである。

合理性の観点からは,合意形成は,合意形成参加者間での現状の認識の共有および将来の行動選択に関する共有された決定 (sharedcommitment) ととらえることが出来る (Clark, 1996; Grosz & Sidner,1990)。

引用元:会話コミュニケーションによる相互信頼感形成の共関心モデル(2015)

すなわち、普段から会話を通じて合計形成(ムクドリは鳴き声うるさそうだよね→ウンそうだね、みたいな)を通じて相互信頼感を高めている場合、全体の利益(2人とも黙秘すればお互い2年の懲役で済む)を考え行動する選択肢が浮上しやすくなるということです。

同著の中では以下のようにも延べられています。

合意形成が相互信頼感構築へとつながるメカニズムとしては次の 2 点を指摘することができる。

まず,会話参加者が関心擦り合わせに真摯に取組み関心擦り合わせが順調に進行することが,結果として皆が受容し易い協調行動提案を産み出し,それが合意に沿った協調行動遂行へと結びつく。

すなわち,会話参加者すべてが合意通りの行為を選択するという期待を安定して抱くことが可能となる。これが行為遂行への期待という形で相互信頼感構築につながる。

もうひとつのメカニズムは,そのような相互的な丁寧な関心擦り合わせの実現が,将来も適切な関心擦り合わせを経て合意形成を行えるという期待の創出に結びつく。それが一段上位レベルでの相互信頼感構築へとつながると考えられる。

引用元:会話コミュニケーションによる相互信頼感形成の共関心モデル(2015)

このような相互信頼感を高める行為は人間社会及び個々のコミュニケーションにおいて、プラスに働く局面が多いことは言うまでもないでしょう。

人間は他者との関係の中で存在意義を見出す

ヒトは社会性を持つ生き物です。

家庭、学校、会社その他いずれにしても人間関係の中で自分の存在意義を見出しています。これは自我同一性とかナントカ言うんですがまあ細かい話はさておき、人は基本的に孤独の中では生きられない生き物です。

名古屋市衛生研究所による研究では男女ともに、すべての年代別において、自殺の危険因子として”孤独感”の存在が挙げられています。(第62巻第6号「厚生の指標」)

孤独感から来る自殺の割合は高年齢者ほど高く、特に一人暮らしの男性ほど孤独を苦痛にした自殺が多くなってきているそうです。まあ高齢化社会とかも関係してくると思いますけどね。

実際の現場をイメージしてもこれはスッと理解出来ます。例えば一人暮らしの高齢者が世を去る割合は病死が60%なんですが、中には親族や友人が訪ねてくることで異常に気付き、早期に処置することで一命を取り留めるケースもあるでしょう。(孤独感から来る自殺、と孤独死は全く別の意味ですが)

このように、普段から他者とコミュニケーションを取って人間関係を深めておくことは、人が生きていく上でとても大切なことなのだと分かります。

反社会的な事件を起こす人間も普段から『孤独感』に苛まれているケースが多い。

まとめ

つらつらと書き連ねましたが、要は何が言いたいかっていうと、誰かがしょうもない疑問を投げかけてきた時は信頼関係を構築するチャンスなのだから、『ググればいいじゃん』と一刀両断せずに、まずは話に乗ってあげるのが大事なんだということです。

このような局面は人間の多数集まるところ、例えば職場や学校ではしょっちゅう目にする機会があります。

最近人間関係がうまくいかなくて…とお悩みの方は、実践してみていただけると幸いです。

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