結婚出来ない人々が増えている理由を探ってみる

『結婚』は誰しも身近な話題であり、興味を引くトピックである。その為か、結婚はした方がいいだの独身は勝ち組だのあーだーこーだ適当に書いてる本(著者の顔がデカデカ乗ってるヤツ)が本屋に大量に並んでいる。売り物にしやすいんだろう。

まあそれもそのはず、近年では若者の結婚ばなれが顕著になっており、なんと男性は4人に1人、女性は6人に1人が生涯未婚というデータがある。なお、この数字は一度でも結婚(すなわち死別や離婚)した人の数は含んでいない。本当に一回も結婚したことがない人たちである。

50歳時の生涯未婚率

今日はこの原因を探っていってみようと思います。

日本人は元々『皆婚かいこん』が基本だった

元来、日本人は結婚するのが当たり前であった。これを皆婚という。

その理由は様々だが、男女の役割分担意識が強い日本社会において、『男は妻子を養い、女は家を守る』のが一般的な日本人だと教育されてきたからであろう。男女がお互いに足らない部分を埋め合うことが合理的かつ幸福だと信じられてきたのだ。

それを証拠に、先ほどの図が示す1950年代の生涯未婚率は2%以下となっている。100人のうち98人が50歳までに結婚しているのである。それが現在のおじいちゃん、おばあちゃん世代であろう。

ちなみに、1960年~1980年にかけて女性の生涯未婚率が男性を上回っているのは、太平洋戦争によって若い男性が多く失われたからだと推測出来る。つまり女性の方が余ってしまった状態だろう。

しかし、概ね5%以下で推移していた生涯未婚率はその後に下がることはなく、むしろ2000年代に突入する付近で大幅に上昇し、現在に及んでいる。

女性の社会的地位向上が原因ではない

晩婚化、未婚化の話題になると主流となる議論が『女性の社会的進出によって結婚の必要が薄れて来た』というものである。これは随所で聞くことが出来る。

未だ男女格差が大きい日本社会では、結婚と同時に退職する女性や、仕事のために出産を諦める女性も数多くいる。どんな業界にせよ、仕事、結婚、出産という3つのライフイベントは密接に結びついているのだ。

出産を機に仕事を辞めてパートに入る、子どもの為に時短勤務をし月給が大幅に下がるといった事象はどの企業でも見ることが出来る。つまり、世のキャリアウーマンに対して、結婚はデメリットを生むのである。これは確かに一見、説得力がある説明に思える。

しかし山田昌弘(中央大学)はこれと別に、男性の経済的地位低下について触れている。つまり未婚化は女性がレベルアップしたのではなく、男性がレベルダウンした結果だと説明するのである。

高度経済成長期が終わり、日本は不景気がダラダラと何十年も続く状態になった。しかし科学の進歩により生活水準は上がっている為、相対的に男性にとって、『結婚することで生活水準が下がる状態』が生まれたというのである。結婚したらお小遣い制になるからヤダ、みたいなカンジ。

さて、果たしてどちらが正しいのだろうか。

これを探るデータソースとして、まず日本家族社会学会全国家族調査委員会が全国の住民基本台帳または選挙人名簿から無作為に選ばれた10,500人に対して行った調査結果(NFRJ98)を、加藤彰彦(実践女子大学)がまとめた図を見てもらいたい。

この図は男女別、年代別に何割の人間が結婚するかまとめたものである。

一番古い1930年代生まれの者はほぼ30歳になるまでに全員結婚しているが、このデータの中で一番若い1960年代生まれの者は30歳の時点で男性のおよそ40%,女性の30%が結婚を経験していない。世代が進むごとに未婚化、晩婚化が顕著になっていることがよくわかる。

重要なのは年齢(女の方が男より若いうちに結婚する)を考慮したとしても男性の未婚化が女性に先行していることである。これは裏付けとして国勢調査で行われた男性の未婚化のデータと一致している。

つまり、生涯未婚率の上昇を主導してきたのは女性でなく男性だという推測が出来る。

不景気が未婚化を促す

女性の社会的進出が原因でないならば、経済成長の低下が未婚化の原因なのだろうか。加藤がまとめた別の図を見てもらいたい。

経済成長と未婚化の関係(男性)

経済成長と未婚化の関係(女性)

これは学歴や職業などをベースにして、19歳~35歳の未婚率をNFRJ98データから図示したものである。数値が1に近いほど結婚出来ていることを示している。

ご覧になってわかるように、女性に比べて男性の方が各変数の及ぶ結果が顕著である。例えば大企業に勤める男性を1とすると、中小企業に勤める男性は約半分、56%しか結婚していないのである。この層が主に日本の未婚率上昇の原因を作っていると言える。

(無職や臨時雇いの男性は更に低く37%しか結婚出来ていないが、人数の多さを考慮すると中小企業勤めの人の方が圧倒的に多い)

それに対し、女性の方は職業的地位に対してあまり未婚率が関係しないことがわかる。つまり、大企業の部長さんであろうがコンビニのアルバイトであろうが、同じくらい結婚出来ているということである。

他に、この図のモデル2(上段)から推測出来るのは以下のことである。

  • 男性・女性共に、学歴が低いほど結婚が早い。逆に言えば高学歴になるほど晩婚化が進む。
  • 職業が不安定な男性は未婚化の傾向が顕著である。特に30代で無職の男性はほぼ結婚出来ない。
  • 農林業を営む家庭に生まれた息子、娘ほど結婚する割合が高い。
  • 都会より田舎に生まれた人の方が結婚する割合が高い。

更にモデル2の下部に注目してみよう。これは経済成長率を加味した結果である。例えば皆婚時代の1940年代では、毎年給料が10%上がる中でみんな結婚していった。1950年代でも毎年給料は5%程度上がった。それらの時代に現代を当てはめてみようというものである。

すると興味深いことに、各有意差が縮まることがわかる。毎年9%程度の経済成長が進めば、中小企業勤めの男性でも大企業に勤めている男性と同じくらいの割合で結婚出来るのである。

この結果から、日本経済の不景気化が生涯未婚率上昇の原因であると推測出来る。

基本的にはみんな結婚したい

こうした未婚の話題になると独身者から出てくるのが『結婚出来ないのではなく、しないのだ』という意見である。つまり未婚ではなく"非婚"だというのである。

これはミクロな視点を想像すると確かにうなづける。前述のように女性にとって(男性も少なからず)結婚はデメリットを生む面があるし、ライフスタイルが多様化した現代において、独身の方が有利なことも多い。趣味に没頭する時間を確保出来るし、人とのつながりもインターネットがあれば随分緩和される。

それを証明するかのように、国立社会保障・人口問題研究所が行った出生動向基本調査では、30代前半の未婚男性、未婚女性の約50%が、恋人はおろか異性の友人さえ持っていないという結果である。

→ https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/doukou15_gaiyo.asp

お見合い結婚がすっかり廃れ、ドラマなどの影響で『運命の出会い』や『唐突に始まる恋』といったキラキラした恋愛が善しとされている現代において、異性の友人すらいないのではキラキラしようがない。未婚化も当然という様相である。

しかし興味深いのは、この調査の結果『いずれ結婚するつもりである』と回答した30代の未婚者が約9割に達する点である。反面、『一生結婚するつもりはない』と回答した30代の未婚者は10%以下である。

このデータが示すところによると、例え20代の頃は独身貴族を志しているような人でも、30代になる頃にはほぼ全員結婚したいという願望が生まれることを示唆している。

つまり、この記事の表題に書いた通り、未婚者の多くは『結婚したくない』のではなく『結婚出来ない』のである。

この調査は2015年に行われたものであり少し古いソースだが、調査開始時から年々その傾向が高まっていることがわかるので、恐らく2022年現在で同じ調査を行えば更にその割合(異性の友人がいないが結婚したい30代)が増えているのではないかと大雑把に推測する。

まとめ

今日の記事ではソースを交えて、日本の未婚化の原因を探ってみました。

結論から言うと、未婚化の大きな要因は不景気によるものであり、女性の社会進出や『結婚したくない人が増えている』という事象はほぼ影響していないことを示しました。

しかしマクロな視点で言えば結婚というライフイベントは様々な要因(例えばお見合い結婚が衰退したことなど)が密接に影響する為、あやふやな表現で締めくくってすみませんが私の言ってることが絶対的に正しいとは思いません。

機会があれば心理学的アプローチからも考察してみたいところです。どうせ誰も読んでないけどな!

りんごんりんごーん