人狼における最適なレギュレーション
最近、私みたいな人狼X出身のチンパンジーでも優しい方が誘って下さることがありまして、BBS系のサーバで長期人狼を遊ばせてもらう機会が増えて来ました。
お世辞ではないんですがBBS系は古参のプレイヤーが多くて、比較的レベルが高いなと感じます。少なくとも言葉遣いの酷い暴言プレイヤーや俺様系のイキリキャラはあんまりいませんね。あくまでXやジャッジメントに比べるとマシ、という程度ですけども。
まあそんな話はさておき、私は長期人狼は多分100回くらいはやっていると思うのですが、長期って基本的に村側が有利なんじゃないかなと感じるんですよね。漫然とですけども。
その理由は、基本的に人間は相手にウソをつき続けることに対して心理的プレッシャーがある為、人狼プレイヤーは発言回数が極度に減ったり、かかる時間に比例してボロが出やすくなったりする為です。
もちろんこれはただの私の"感想"なので、何か裏付けはないかと論文を漁ってみると、しっかり研究したものが見つかりました。そこで今日は人狼における最適なレギュレーション(人数及び役職構成)を、私見を交えて紹介してみようと思います。
役職抜きの場合の最適な比率
まず初めに紹介するのは占い師や騎士などの役職を抜いた場合のレギュレーションです。まあ、そんなマゾいレギュレーションでプレイされることはほとんどないと思いますが、ポーランド量子物理学者のPiotrMigdalによると以下の図式が提示されています。
引用元:A mathematical model of the Mafia gamem, Piotr Migdał ∗†‡§, March 13, 2013
mが人狼、nが村人の数です。そして実線が偶数人数であり、破線が奇数人数を表しています。線自体は人狼側と村人側の勝率がちょうど半々になる可能性を描いています。つまり、100人の村なら人狼は6人、99人の村なら人狼は4人でちょうど同じくらい人狼側に勝つチャンスが生まれ、全体的にフェアな勝負になるということです。(この論文の読み解きには愛するFFのみんなの力を借りました、ありがとう)
尚、上記の研究は相手の表情を探ったり、何らかの戦術を立てたりといった心理的な要因は考慮されていないことに注意して下さい。また、投票が同数の場合はランダム処刑という前提になっています。何とも奇妙なことですが、偶数より奇数の方が人狼は有利ということになっています。しかしこれは直観的に違和感を感じますよね。
役職コミの場合の人狼の勝率
上記の違和感の正体はやはり役職の有無です。騎士(狩人)という存在は護衛に成功すると偶数と奇数を反転させることが出来ます。特に偶数から奇数に反転した場合、人狼プレイヤーは『縄が増える』と表現します。この効果は非常に大きいもので、処刑回数を一回増やすことが出来ます。故に普段役職コミで遊んでいる身からすると『奇数の方が人狼有利』という理論は何だかヘンに感じるのです。所詮は机上の空論ということですね。
そこで東京大学工学院工学博士の鳥海不二夫と稲葉通将、高橋健一らは人狼BBSを独自に調査し、人数毎の人狼の勝率をロジスティック回帰分析という手法で調査しました。ヒマな人たちですね。その結果が下記です。
引用元:The Statistical Analysis of Werewolf Game Data
MICHIMASA INABA,† FUJIO TORIUMI†† and KENICHI TAKAHASHI†, 2012
設定される役職は占い師、騎士、霊能者、狂人で共有者などは入っていません。俗に言う『スタンダード構成』です。サーバによってスタンダードの認識はマチマチですけども。また、無発言による突然死は除外して調査されています。
これによれば15人村の場合は村側、人狼側の勝利する確率は半々ですが、人数が減るほど人狼側の勝率は上がり、ピークとして12人村ではグッと狼が有利になります。それもそのはず、前者は処刑するチャンスが7回ありますが、後者は5回しかないからです。狂人が占い師を騙るなどして人狼をサポートすることも考慮すれば、12人村では村側を処刑することは一回しか許されません。
しかし逆に、11人村になって人狼の数が一匹減ると、今度は人狼側の勝率は31.7%にまで落ち込みます。すなわち、11人の長期村では人狼は3回に1回しか勝てないということです。狼が一匹減るという効果は大きく、9人村でも2w(w=ウルフ、人狼のこと)が勝てる確率は38.8%に留まります。これは客観的に11~9人のスタンダード構成は人狼側にとって極めて不利である、と言えます。
奇数は人狼側が有利という結果が出ているのに役職コミだとあまり関係なくなってくるのは、上述のように人数を反転させる騎士の存在があるからです。私が何となく長期って人狼不利だよなぁ、って感じていたのはこの辺が原因だったんですね。
じゃあ最適なレギュレーションは?
それでは、人狼側有利、または不利に傾いてしまう9~13人構成の場合、どのようなレギュレーションが望ましいのでしょうか。村人と人狼を除く各役職は最大1人であることが一般的ですので、その前提で同じロジスティック回帰分析にて算出したところ、村人側、人狼側の勝率を極力フィフティ-フィフティに近づけた以下の結果が得られました。
引用元:The Statistical Analysis of Werewolf Game Data
MICHIMASA INABA,† FUJIO TORIUMI†† and KENICHI TAKAHASHI†, 2012
驚くことに9人~11人村の場合でも3w入れた方がフェアなゲームになるという結果でした。代わりに全てのケースから狂人を抜くことでバランスを取り、9人の場合は騎士を入れることで村側にアドバンテージを与えています。
更に、12~13人構成の場合、村側を弱体化させる為に霊能者を抜いています。え、霊能者って要らない子だったの?しかしそれでも微妙に村側が有利みたいです。私の経験だとこの構成の村はほぼ存在しないので実体験として想定出来ないですが、実際にやってみるとなかなか面白そうですね。村建てをされる方は是非参考にしてみて下さい。
狂人がいないので占い師はほぼ狼が騙ることになりますね。そして騎士はどちらを真に置くか択を迫られることになるでしょう。霊能者がいない場合は更に進行役がいなくなるので、投票はPt制になるか両占い目線のバランス吊りになるか…といった感じでしょうか。
補足:各役職者の重要度
上記の表を作成するにあたり、稲葉らは1700ゲーム以上をサンプルとして、各役職者が勝利に貢献する度合いを分析しています。その結果がこちらです。
引用元: The Statistical Analysis of Werewolf Game Data
MICHIMASA INABA,† FUJIO TORIUMI†† and KENICHI TAKAHASHI†, 2012
まずP値は全て有意なので、『勝ち負けに関与しない役職は存在しない』ということが言えそうです。まぁこれは体感的に分かりますね。回帰係数が1に近づくほど人狼側の勝利を表すので、人狼及び狂人は当然ながら正の値になっています。
この表からすると最も村側の勝利に貢献する役職は占い師と騎士(狩人)であるということが分かります。意外と霊能者と共有者の重要度って低いんですね。そして、何の能力も持たない村人は勝利に貢献しにくいということが分かるでしょう。
説明変数に各役職の生存人数を使っているらしいので、面白いことに霊能者や共有者が生存していても人狼を処刑出来る割合はそれほど高くないということが分かります。騎士が生存している方が結果的に勝利に傾くということです。まぁ、それでも村人に比べればはるかに高いですが。負けても霊能者に責任を押し付けるのはやめましょうね!
まとめ
本記事では人狼ゲームについて研究した論文を基に、各種人数における最適なレギュレーションをご紹介しました。ただし、こちらの内容は人狼BBSを参考にした結果であり、ボディランゲージが加わる対面人狼や短期村ですと全く異なる結果になる可能性があります。
尚、これらの結果を元に稲葉らは人狼ゲームを人間の代わりに行うことが出来るエージェント(人工知能)の開発を画策しているらしいです。将棋や囲碁のように、人間がコンピューターに負ける日が来るかもしれませんね。
人狼は奥が深いね~
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