台湾で一体何が起こっているのかわかりやすく解説

アメリカのペロシ下院議長が台湾へ訪問したことに反発し、中国が台湾を取り囲む形で4日間の大規模軍事演習を行いました。これに対して台湾も南部沿岸周辺で「重砲射撃訓練」を行うと発表。

ウクライナの件を振り返ればわかりますが、この場合の軍事演習というのは『オラオラ、攻め込んじゃうぞ』という威嚇、つまり戦争勃発の前段階です。自軍の戦力を誇示する意味があります。

一体なぜ、ペロシが台湾を訪問しただけで中国が怒っているのでしょうか。わかりやすく解説します。

台湾の歴史

まずこの問題を理解するにあたって、台湾の歴史に触れる必要があります。

皆さんご存じかと思いますが、台湾というのは島国です。日本と同じで、周りが海に囲まれた土地です。その為、中国本土とは歴史や文化がかなりかけ離れている側面があります。

清に支配されていた時代

台湾は1895年まで、中国のしん帝国に支配されていました。しかし台湾は本土と離れた島国なので直接的な支配が及ぶことはなく、清の帝王も台湾を『化外けがいの地』、つまり皇帝の支配する土地ではない、中国だけど中国じゃないという扱いで、発展に消極的でした。

日本が50年間統治

そんなこんなで何となく"浮いていた"台湾に目を付けたのが大日本帝国です。

日清戦争で圧倒的勝利を収めた日本は、台湾をゲットして支配することになりました。敵国に支配されるということで台湾の人々はさぞ屈辱的な想いをしたことでしょう。

この支配は日本が第二次世界大戦に敗北する1945年まで続きました。ちょうど50年間くらいですね。中には日本統治時代に生まれ、日本統治時代に死んでいった"日本人"もいることでしょう。かなり長い期間です。

さて、皮肉にも台湾の近代化が急速に進んだのはこの日本統治時代だと言われています。

こんな話があります。台湾を取り戻した中国軍は『ひねれば水が出る』というウワサを聞きつけて金物屋に殺到し、蛇口を買い占めたそうです。そしてそれを壁にねじ込んで『水が出ないぞ!』と怒ったそうな。

水道インフラが日本によって整備されていた台湾と、まだ井戸しかなく蛇口というものを知らなかった中国軍。その文化の差を表す笑い話ですね。

日本統治時代に建築された台湾総督府。文化遺産となっている。
現在も中華民国総統府として利用されている。

再び中国が支配

大戦で敗北した日本は台湾を中国に明け渡し、中国軍が再び支配することになりました。

しかし中国軍は非常に素行が悪く、宝石や時計を一般市民から略奪するなどかなり無秩序だったそうです。まあ、それまで50年間も日本が管理していた土地ですから、この時の台湾は完全に"日本の一部"であり、中国軍からすれば敵の土地です。どんだけヒドいことしても罪悪感はなかったのでしょう。

このように軍人や警察が腐敗しまくり全く仕事をしなくなったので、台湾の治安は大きく低下しました。それまでは家に鍵をかける必要なんてなかったのに、中国が支配してからは電車にもバスにも警護員が同乗しなければならなくなりました。

あっという間に窃盗や婦女暴行が日常茶飯事の地獄へ変化。このことを嘆いた台湾の人々の間では、『犬が去って豚が来た』という言葉が流行しました。

引用元:https://yosaku60.exblog.jp/27944385/

『犬(日本)は口うるさくて騒がしいが、番犬の役割はしてくれた。豚(中国)は食べるだけで何もしない』という意味です。

これだけ日本の統治時代はハッピーだったんだよ、と書くとなんだか日本びいきみたいですが、実際に当時の人々は『まだ日本の方がマシだった』と考えていました。それを証拠に、この積もり積もった不満は後に『二・二八事件ににはちじけん』を起こす引き金となります。

二・二八事件の悲劇

中国軍が台湾を支配してから2年後、路上でこんな事件が起きます。

少女「タバコ、タバコはいりませんか~?」

警察「おい嬢ちゃん!タバコの販売は禁止されてるアルよ!」

少女「あっ、すみません…」

警察「うるさい!タバコも金も全部よこすアル!」(ボコッボコッ)

少女「やめて、殴らないで!」

正義マン「おいどうした、何の騒ぎだ!?」

警察「うるせー!」(ズギューン)

無関係の通行人「うわーw流れ弾で死んだンゴ…」

当時の台湾では、タバコ、酒、塩、砂糖は政府が直轄管理していました。つまり民間人が勝手に売ってはならんということですね。一種の禁酒法みたいなもん。中国本土では自由なのに、台湾だけこのような"イジメ"に近い法規制がありました。この背景で『闇タバコ』を売る人々が居たのですが、それが摘発されたことがきっかけです。

暴行を受ける女性に同情した通行人が周囲を取り囲んだところ、警察が何をトチ狂ったか発砲しながら逃走。その銃弾が全く無関係だった一般市民に当たり、死に至らしめてしまいます。しかも、この少女は腐敗した政府高官の指示で闇タバコを売らされていたのです。

このことをきっかけに台湾人の怒りが爆発。翌日には抗議のデモ隊が警備総司令陳儀ちんぎの公舎に大挙して押し寄せました。しかしこの陳儀というのはかなりのクソ野郎で、表向きは人々に対して『謝るから許してくれよ』と友好的な態度を取りながら、裏では蔣介石しょうかいせきに連絡して軍隊を派遣してもらい、市庁舎の屋上から機関銃をぶっ放してデモ隊を無差別攻撃しました。

デモ隊に向けて中国政府から配られたビラ。日本語も併記されている。
『政府は諸君の保護に尽力する』と書かれているが、真っ赤なウソだった。

そして陳儀はこれ幸いと勢いに乗り、逆に台湾人を殺しまくりました。主なターゲットは日本教育を受けたエリート層の台湾人です。陳儀はこの機会に知識層や共産主義者を全て排除し、台湾を完全な中国支配下にするよう虐殺を開始したのです。

一週間かけて虐殺は続きました。彼らは台湾人の手に針金を刺して縛り上げ、港から海に投げ捨てました。次々と日本寄りの考えを持つ台湾人や共産主義者は残酷な方法で処刑されました。天安門事件と同じで被害者数は発表されていませんが、約3万人とも言われています。

こんなヒドいことをしておいて、陳儀は翌年に共産主義者に寝返ろうとして処刑されました。信義も正義も何もない、まさに絵に描いたようなブタ野郎。『蒼天の拳』の悪役で出て来そうな感じ。

中国本土で大ゲンカが始まる

一方そのころ、中国本土では大ゲンカが始まっていました。毛沢東もうたくとう率いる共産党と蒋介石しょうかいせき率いる国民党のバトルです。

第二次世界大戦中は国共合作こっきょうがっさくと呼び『日本に抵抗しなきゃ!』と力を合わせていた両氏ですが、戦争が終わった直後、大きな敵もいなくなったので『中国はオレのものだい!』と内戦を始めたワケです。全く人間ってヤツは豪が深いですね。

ここで顔を出したのは二大超大国のロシア(この当時はソ連)とアメリカ。やっぱり地球上の戦いはすべてこの二国の代理戦争です。共産党はその名の通りロシアが支援、国民党はアメリカが支援していました。

しかし冷戦下のアメリカが『中立』を宣言し国民党への支援を打ち切ると蒋介石はあっという間に毛沢東に敗北。無残に処刑…されることはなく、なんと台湾に逃げ込む選択をします。台湾は島国ですから、逃げ込んで籠城するのにうってつけの土地柄だったのです。

左が蒋介石、右が毛沢東。

中国本土はロシア中国、台湾はアメリカ中国へ

共産圏(つまりロシア)の勢力が中国で拡大することを危惧したアメリカは、再び台湾の軍事支援を再開します。これにより、中国はいわば"ロシア中国"、台湾は"アメリカ中国"となります。そして1979年から現在に至るまで、アメリカは戦車やミサイルなど様々な兵器を台湾へ販売しているのです。

台湾の人々も、日本統治時代の生き残りがまだギリギリ残ってるあたりなので、中国本土ほど反日家ばっかりというワケではありません。『日本もヤバかったけど中国はもっとヤバイ』ということを知っているからです。そういうワケで、アメリカの支援を受け入れることに抵抗はありません。

バイデン大統領も2021年に『台湾への支援を引き続き継続する』と宣言しています。

長くなりましたが、これが台湾の辿っている歴史になります。

台湾では未だに中華民国ちゅうかみんこくを自称し、中華人民共和国(中国)とウチは違う国なんだと考える人々がいます。

ペロシ下院議長の訪問

さて、そんな事情を抱える台湾に訪問したのがペロシ下院議長です。このペロシという人はアメリカでかなり存在感を持つ女性で、『第三の大統領』とも呼ばれています。

この人は中国に対してなかなか攻撃的で、中国政府が反逆者として扱うダライ・ラマと会ったり、弾圧が続いているチベットの首都ラサを訪問した過去があります。

そんな人が何故このタイミングで台湾を訪れたのでしょうか。理由は言うまでもなくウクライナ戦争に関係するものだと思われます。

経済制裁を発動しロシアとアメリカの仲が悪くなる中、ロシアのお友達である中国に対して、『台湾はアメリカのものだから、もし何かあったら許さんやで中国』と釘を刺しにいったのです。

実際、彼女は『われわれはハイレベルの台湾訪問を継続し、中国が台湾を孤立化させることは許さない。米国と台湾の友好関係は強固だ』とコメントしています。

これに猛反発したのは中国当局。冒頭に記載した通り台湾を包囲する形で軍事演習を行い、またペロシ下院議長の到着日に合わせて戦闘機をズンズン飛ばしたり、サイバー攻撃を仕掛けたりしました。

もしこのまま過熱して中国本土と台湾の間で戦争が勃発すれば、第二のウクライナになることは必須でしょう。だからこんなに大騒ぎしているのです。

日本の置かれた立場

日本はペロシ下院議長の台湾訪問に対して、『コメントを控える』としてボンヤリした立場です。

日本はアメリカのお友達でロシアの仮想敵ですが、中国とはあんまりにも距離が近いんでもめ事に巻き込まれたくないんですよね。つまり…何ていうんでしょう。仲のいい子がイジメられてるけど、助けると自分もイジメられるかも…みたいな。そんな心境。

中国外交部の鄧励かくれい・副部長は8月4日、日本の駐中国大使を呼び出し、日本が『台湾海峡の平和及び安定の維持に関するG7外相声明』に参加したことを抗議しました。

日本が声明に参加したことは『是非を転倒し、自己を棚に上げて人をとがめるものだ。米国のためにナンシー・ペロシ下院議長の台湾訪問を容認し、中国の主権を侵犯する誤った行為の手先となっている。理由なく中国を非難・誹謗し、中国の内政に粗暴に干渉するもので、国際関係の基本ルールと中日間の4つの基本文書の原則に反している。国際社会に誤った信号を発するもので、極めて悪質』として、怒りのコメントを発表しています。

その上で『台湾問題は中日の政治的関係の基礎と両国間の基本的信義に関わる』とし、日本は長期間にわたって台湾を植民地とし、台湾問題について逃れられない重大な歴史的責任があるため、『なおさら言行を慎むべきだ』と批判しました。

これに対し、在中国の日本大使館は、日本の立場を申し入れた上で、中国が直ちに軍事演習を中止するよう強く求めました。仲の悪い状態。

このように、台湾では一触即発の緊張状態が依然として続いています。まさか戦争なんて起こるワケないでしょと思ってたら勃発したのがウクライナ戦争なので、台湾もどうなるかわかりません。

そして今回は日本のすぐ目と鼻の先で起きていることなのです。今後も目が離せない台湾問題、おわかりになりましたでしょうか。

第三次世界大戦なんてことになりませんように…