もし家族がカルトに関わったらどうなるか

安倍元総理襲撃事件の件で統一教会が注目されていますが、こんな論文を見つけたのでわかりやすく内容をまとめてみたいと思います。

論文の概要

フリーランスの中西彩之氏と立正大の西田公昭教授(社会心理学)が共同執筆し、学会誌『日本応用心理学会』(2019年7月号)に掲載。家族のメンバーが過去または現在、カルト団体に関与している17人に計297時間の聞き取り調査を行い、心の変化を12の段階で示しました。西田教授はオウム真理教などカルト関連の研究を数多く行っている心理学者です。

カルトの定義とは何か

まず、一応カルトの定義について記載しておきましょう。カルトとは『自分の利益の為に様々な欺瞞ぎまんを行い、人権を侵害する集団』のこと。オウム真理教と言えばピンと来るでしょう。新興宗教がカルトに結びつくケースが9割ですが、他にもエセ科学を流布して詐欺同然の商売を行っている集団もカルトと呼ばれることがあります。

大体のカルトに120%共通する点は下記。(イルル主観)

  • 教祖を神と同一視する
  • 女性に対し差別的な扱いをする
  • マインドコンロールを行う

カルトにハマるのは"普通の人たち"

カルトにハマる家庭は従来、機能不全であるケースが多いとされて来ました。例えば親が離婚してるとか、子どもが非行に走ってるとか、何らかの問題を抱えた家族がカルトの餌食になると推測されて来たのです。

しかし中西によると、家庭環境の問題はカルトに関わってしまうきっかけの一つでしかなく、実際は何の問題もない、平均的な家庭の出身者が数多くカルトのメンバーとなっていることが挙げられています。

異変に気づけない家族

誰かがカルトのメンバーになっても、家族が即座に察知するのは難しいと中西・西田は指摘しています。

その理由としては『外出理由やお金の使い道を本人が偽っていた』、『聖書の勉強やサークル活動だと聞いていた』、『当人が夢中になっている"何か"程度にしか思わなかった』など。

逆にどんな時に察知出来るかというと、当人が突然カミングアウトしたり、部屋を掃除していたらそれらしきグッズが出て来たケースなどが多く、偶発的、あるいは事後報告的にカルトへの関わりが発覚する場合が多いようです。

家族と当人の関係が悪化する

カルトにハマるのは普通の家庭です。つまり全く無知なのではなく、我々と同じように『何かアヤシイ集団なんじゃないの』と前知識を持っているケースもあります。それでもハマった家族を助けられない。何故か。

それを中西・西田は『早期脱会への希望的解釈』という言葉で説明しています。つまり、きちんと話し合えばすぐ脱会させられると思った、またはマインドコントロールという言葉は知っているが、まさか自分の家族がその状態にあるとは思わなかった、など。

こういった家庭は家族会議を開いて、時には集会に向かう家族を力づくでも引き留めようとしますが、その大半において『当人との関係が悪化し、口論が絶えなくなり、最低限の会話しかしてくれなくなる』といいます。

カルトにハマった当人からすると家族が"敵"になってしまうワケですね。強い反発の結果、強引に出家してしまうケースもあるようです。すなわち、カルトにハマった時点で説得不可能に陥っているケースが多いということです。

当人の生活環境の悪化

カルトにハマった人間の行動として『他人を勧誘する』という報告が多く挙げられました。

それは自分の子どもだったり、あるいは学校の友達だったり。その結果、従来の人間関係を失って孤立し、ますます他者と亀裂が入る要因になるそうです。

更にはカルトしか心の拠り所がなくなってしまい、団体の活動に専念する為に仕事や学校を辞める、布教の為に海外に行ってしまうなど、生活への悪影響が顕著になるケースも。

カルト問題への疲弊、ストレス

これらのプロセスを経て、家族の中で生まれるのは『脱会して欲しいが、半ばあきらめた気持ち』や『いつか気づいてくれれば…という気持ち』です。

カルト問題は恥や体裁の問題で部外者に相談出来ないケースがほとんどで、大抵の場合は家族側が"根負け"してしまうそうです。まあ当人がマインドコントロールされてるのですから、それを一般人が解くのは容易ではないですよね。

それでも自助グループに相談したケースはありましたが、学校や警察に相談しても『家族の中の問題』、あるいは『信教の自由』といった言葉をタテにして役に立たなかったそうです。

まとめ

本記事では中西・西田の論文を元に、カルトにハマった家族環境のプロセスを記載しました。

  • カルトにハマるのは普通の家庭
  • 家族の変化に気づくのは難しい
  • カルトにハマった家族との衝突
  • 当人の人間関係の悪化、孤立
  • ストレスから来る疲弊、そして諦め

カルトは『僕らカルトでーす!』といった顔で近づいて来ることはありません。その入口は大学のサークルだったりSNSだったり様々。オウム真理教も最初はただのヨガ教室でした。

くれぐれもそういった落とし穴にハマらないよう、普段から気を付けましょう。

みんな『自分は大丈夫』って言うんだわさ…