転売は何故いけないことなのか

生まれて初めてガンダムにハマってるんですよ。『水星の魔女』っていうシリーズです。ガンダムって暗い話が多い印象で大して興味なかったんですけど、試しに見てみたら最高に面白い。

その流れで初めてガンプラっていうのに興味を持ったんですけどこれがマァ売ってない。全部売り切れ。原因は主に転売屋の買占めですね。

そこで今日は、日本で流行している転売行為について、何がいけないのかを怒りと共に(でもなるべく客観的に)まとめてみました。

転売は『経済厚生』を阻害する

経済厚生とはミクロ経済学の主要な一分野であり、分かりやすく言えば『国民の満足度』のことです。

一例を挙げるとモノを消費するほど人々の満足度は上がり、物価の高騰でそれが出来なくなると満足度は下がるということですね。

先の私の例を挙げれば、ガンプラが欲しいのに転売屋のせいで買えず、私の満足度が低下しているという現象が挙げられます。

こう言うと『お前の気分の問題じゃん』ってツッコミが飛んで来そうですが、転売対象がガンプラのようなオモチャではなく、生活に必要なものに置き換えるとどうでしょう。

例えば最近では、コロナ禍に乗じてマスクやアルコール消毒液の買い占め及び高額転売が横行し、令和2年に国民生活安定緊急措置法施行令が発布され、転売行為が禁止されたことは記憶に新しいですね。パニックに乗じてティッシュやトイレットペーパーまで店頭から姿を消し、多くの人が生活に窮したはずです。

このような経済厚生を阻害する点において、買い占めが伴う転売行為は悪と位置付けられるでしょう。

転売はコンテンツの寿命を縮める

まぁ一言で言えば『PS5見てりゃ分かるだろ』ってことなんですが、転売行為はコンテンツの寿命を縮めます。

ファミ通によるとPS5は発売直後の週に118,085台が発売されました。そのうち約2%がヤフオクで転売され、その後も継続的に転売対象となっています。発売から2年経過した今日でも、なかなかゲーム屋の店頭で見ることは出来ません。

重要なのは、経済は生産と消費のバランスで成り立っているということです。そして転売屋はモノを消費しないところに問題があります。平たく言えばPS5を10台買って10台使って遊んだりしません。せいぜい自分用に1台開けて、あとはハコに入ったままマンションの一室に放置です。

これらは長期的に見れば(いずれは転売が完了して消費者の手に渡るので)影響は少ないですが、本体が売れている割にソフトが売れないという状況が発生しており、サードパーティがPS5に手を出しにくい要因になっています。

転売は不要な企業負担を発生させる

転売行為は各関係者に対し、本来必要のない負担を大きく発生させます。つまり迷惑なんです。

例えば、先ほどのPS5の例で言うと、家電量販店のノジマは11月25 日より抽選申込の受付をしたところ、約12 万件の抽選申込がありました。これに対して転売目的の応募者排除のため、応募すべてを目視で確認しなければならず、結果として当選の発表が遅延しました。

その他、有名な例としてジブリが公開した『サツキとメイの家』が挙げられます。

これは2005年の愛・地球博で公開された、『となりのトトロ』に登場するサツキとメイの家を見学出来るというコンテンツでしたが、4月1日にローソンのLoppiで予約開始後、午前10時にはLoppi端末が一斉にフリーズ。復旧したと思ったらチケットは全て売り切れていました。約70分間の出来事です。

ログを解析すると60万件ものアクセスがあり、ほとんどが転売屋の組んだBotによるものだと推測されています。徹夜でLoppiにお客さんが並んだ店舗や、Loppiの前に50人もの列を作った店舗もありましたが、そのほとんどの人がチケットを取得出来ませんでした。

チケットは即日Yahooオークションに出品され、一枚あたり平均3000円ぐらいから、高額なものでは4枚で16万8千円という異常な価格がつくことになりました。ちなみに本来は無料のチケットです。

これに困ったローソンは取扱の中止を通達。それ以降、チケット予約はハガキ形式へ変更することを余儀なくされました。

それにも関わらず、転売屋が在庫を捌ききれなかった為か、予約した顧客のうち約13%が来場しないという事態が発生することになってしまいました。

チケット販売大手のイープラスによると『チケット購入アクセスの9割がbot』という事態であり、対策に多くの資金をかけ、これを解消するよう努めています。

転売屋は間接的な違法行為者が多い

元々、チケットなどを買い占めて高額で転売する者は『ダフ屋』と呼ばれ、昔から日本には存在していました。そして公共の場でダフ屋行為を行うことは迷惑防止条例で禁止されています。

しかし"公共の場"とするか判断が難しいインターネットの普及により、誰でも手軽にダフ屋行為が出来るようになった為、政府は「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(略称チケット不正転売禁止法)を令和元年6月14日から施行しました。

安くモノを買って高く売る、それは商取引の基本原則であるはずなのに、なぜ禁止されたんでしょうか。

それは転売屋の周辺には副次的な違法行為がつきまとう背景があります。

詐欺

まずは詐欺です。まぁわかりやすいですね。チケットを買っても一向に届かないってパターンです。

国民生活センターによると『代金を振り込んだがチケットが届かない』といった相談が全国の消費生活センターなどに相次いでおり、チケット転売に関する相談は、2018年度は2,076件と前年17年度の約2.4倍。19年度も7月末時点で1813件と多く、転売が詐欺行為の温床になっています。

また、例えば本人確認を求められるチケット購入サイトにおいて、他人の本人確認書類を使えばそれも詐欺罪に当たりますし、架空のものを作れば文書偽造の罪にも該当します。

暴力団の資金源

ダフ屋行為が始まったのは1962年頃であり、迷惑防止条例で禁止された背景に、暴力団の資金源となっていたことが挙げられます。また、道行く人々に執拗に付きまとったり、押し売りをする行為も問題視されました。

そんなダフ屋行為が厳しく取り締まられるようになり、そのまま転売屋にシフトした暴力団もいます。

2020年11月には、マスク約282万枚を仕入れたものの、購入代金約7400万円を踏み倒そうとしたなどとして、警視庁は、指定暴力団山口組系の組幹部西村裕之容疑者(55)=住所不定=ら男3人を恐喝未遂と監禁の疑いで逮捕しています。

古物営業法違反

古物に該当するケース、該当するモノが複雑であり、一概にどうとは言えませんが、反復して転売行為を行う場合、基本的に古物商許可が必要になります。古物商許可というのは盗品を売りさばくのを防止する目的で作られた法律です。

リサイクルショップで中古品を買ってきてそれを転売するようなケースでは必ず必要です。

大黒屋などの金券ショップは当然ながら全て古物商許可を取得していますが、その辺の転売屋はほとんど取っていません。その為、転売に伴う逮捕事例が度々発生しています。

税金未納

転売屋について一番よく言われるのがコレ。

国税庁の調査によると、「インターネット取引を行っている個人」に対する調査にて、2019事業年度の実地調査は1,877件で、1件当たりの申告漏れ所得金額は1,264万円。申告漏れ所得金額の総額は、237億円となっています。

1件当たりの追徴税額は349万円で、追徴税額の総額は65億円。これも前年度から調査件数が大きく減った中で、12.1%の増加となりました。

もちろんキチンと税金を納めている転売屋もいるでしょうが、調査対象の1,877件のうち89.5%にあたる1680件で無申告が明らかになったということですので、約9割の転売屋が税金を正しく払っていないということなのです。

転売屋は社会的に無駄な存在

経済学の観点から考えて、転売屋というのは無駄な存在です。これは感情論ではなく。

例えばガンプラに話を戻すと、バンダイがガンプラを生産してそれを最終消費者が購入しますが、転売屋はその間に挟まり、価値を釣り上げて転売を行います。こうした行為は原則として総余剰(経済厚生)を増加させることがありません。

ガンプラを作ってそれを消費者が買う。その間に挟まる転売屋が何か付加価値を設けるならば別ですが、ただ値段を上げるだけではバンダイの収益にもなりませんし消費者の収益にもなりません。転売屋が儲かるだけです。

これは大きな視点から言うと、右から左にモノを渡しているだけで社会的には何も生みだしていないので他の仕事に従事した方が望ましい存在と言えます。

こういうこと言うとよく『現地まで行って買えない人の為に代わりに買いに行ってあげてる』って反論が飛んでくるんですが、今時ガンプラなんてAmazonでポチればいいだけなので、それは詭弁と言わざるを得ませんね。

むしろ小売店などはアフターサービスが企業提携のもとに整備されており、購入時に破損していたガンプラを持って行けば交換対応などに応じてくれますが、転売屋は返品不可が原則ですから、サービスを低下させているとまで言えるでしょう。

まぁ例外として、例えば中国でしか売っていないものを日本に持ち込んで転売(つまり2つの市場の橋渡しをする行為)などのケースは有益であると言えます。

結論として

本記事では転売行為が経済厚生に及ぼす影響、転売行為に伴う犯罪発生率の高さ、転売行為が社会経済に寄与しないという点をなるべく客観的に記述しました。

もちろん、転売行為そのものは自由経済の名の元、(チケットなどを除いて)法的に禁止されてはいないのですが、三重短期大学の高橋(心理学概論)は『チケット高額転売に関する大学生の道徳的判断』(2020)にて、大学生を対象に転売チケットの購入可能性について調査し、いくつかの購入機会について道徳的判断が影響することを証明しています。

それを踏まえると社会の中には転売を望ましくない行為と捉えている人が一定数いると考えるのが妥当でしょう。

まあ平たく言うと転売なんてしてないで働けってことだわさ