親友を失った話

なーんとなく思い出語り。

親友だったイシワタ君

まだ幼い少年だった頃、私は神奈川県の中学校に通っていました。潮風がかおる、港町です。

当時から私はゲームが大好きで、プレイステーションやセガサターンをどっぷりと遊んでいたことを覚えています。お小遣いをもらってゲームセンターで遊ぶのも大好きでした。

プレイステーションの『ときめきメモリアル』をドキドキしながら遊ぶような、思春期まっさかりの純粋な童貞でしたね。

そんな私が中学3年生になってクラス変えをすると、気の合う仲のいい男友達ができました。名前はイシワタ君という名前でした。

当時はあまり意識しませんでしたが、ジャニーズばりのイケメンだったと思います。

しかし彼は少し気性が激しく、また善悪の区別が曖昧なところがありました。

具体的には、学校に禁止のお菓子を持ち込んで食べていたり、ちょっと諍いがあると同級生と殴り合いのケンカを始めたり。あまり周囲に馴染めない感じのタイプだったと思います。

当然というべきか友人も少なく、2~3人しか遊ぶ相手がいないようでした。狭く深く付き合うタイプというか。

でも彼もすごくゲームが好きで、私たちはよくお互いの家に遊びに行くような間柄になりました。彼の家は広くて綺麗で、ふかふかのソファがあったのを覚えています。

彼は刺激的な存在だった

彼は私の知らないアングラな知識をたくさん持っていました。

インターネットが流通していなかった時代なので、どこで見知ったかは謎なんですが、ゲームのデータを改造する方法や、ディスクをコピーして動作させる方法を熟知していたのです。

当時の私にとって、『ポケットモンスター』のポケモンが全部レベル100になったり、『スーパーマリオ』で常時無敵状態になったりというゲーム改造テクニックは、とても輝いて刺激的に見えたものです。

昔の秋葉原はまだメイドカフェなんてものはなく、怪しい外国人が腕時計を売ってたりパチモンのファミコンソフトを汚い露天商が売ってるような場所だったんですが、彼はそんな秋葉原の歩き方もよく知っており、たまに一緒に出かけていました。

大ゲンカをして決別

それから中学校を卒業して高校生になりたての頃。私はまだイシワタ君とよく一緒に遊んでいました。

イケメンの彼はすぐに彼女ができ、とっかえひっかえに色んな子と付き合っていたのを覚えています。まだ童貞だった私からはめちゃくちゃ羨ましく見えました(笑)

しかし新一年生の夏ごろでしょうか。私も高校に慣れる頃になると別の友達がたくさん出来て、段々イシワタ君との接点は減っていったんです。

私は偏差値40くらいのバカ高校で、頭のいい彼は中堅どころの高校に別々に進学したので、当然と言えば当然です。

そんな彼とある日、ケンカしました。

原因はよく覚えていません。些細なことだったんじゃないかと思います。

彼が私の家に遊びに来ていたんですが、殴る蹴るの大ゲンカ。彼は発狂したように家中の家具をぶっ壊し、玄関のガラスも割られました。大惨事です。

偶然にも家族が不在だったので私はすぐ警察を呼び、その夜に先方の両親が自宅へ謝罪しに来ました。

ハキハキしながら家具の弁償を申し出るお父さん。ずっと泣きじゃくっているお母さん。

今思い返すと、確か妹さんもいましたし、一見して問題なさそうな普通の4人家族に思います。家もキレイな一軒家でしたし。しかし、何かしら教育上の問題を抱えていた部分はあったんでしょうね。

とりあえずそんなことがあって、私たちは絶交しました。

その後…

中学校の頃の友達のネットワークで聞いたんですが、私と大ゲンカして二週間ほど経過した後、彼は高校を退学になりました。教師を殴ったからだそうです。

もう顔も見たくなかったので「ふーん」としか思わず、私は高校生活を送り、大学に進学して、(ゲームまみれの)学生生活をエンジョイしておりました。

一方のイシワタ君はその後どうなったかというと…。

逮捕されちゃったんですよねえ…。

彼はコピーしたゲームを売りさばく事業を閃いたようで、ホームページまで作って大々的にコピーゲームを通信販売していたようです。

当時、所持しているゲームを私的に複製することはまだ違法ではありませんでしたが、お金を取って第三者に販売するのは当然犯罪です。

彼はよく中学生のころ、『中国だとコピーしたゲームがごく普通に販売されている。だから日本でも犯罪にはならない』と言ってました。今考えるとナンセンスですが、彼の言うように秋葉原の露天商たちはよくコピーしたゲームを売りさばいていたので、そういう文化に悪影響を受けたんでしょう。

当時の朝日新聞の記事

海賊版ゲーム容疑者再逮捕 犯罪収益隠匿の疑い

 インターネットで「著作権超侵害中」と宣伝して売った海賊版ゲームソフトの収益を他人名義の銀行口座に隠したとして、警視庁は19日、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益の隠匿など)の疑いで、東京都江戸川区のフリーライター石渡悠貴容疑者(22)ら3人=著作権法違反の罪で起訴=を再逮捕し、中央区の自営業櫛引伸一容疑者(46)を逮捕した。石渡容疑者は「サイバーユーキ」の名前でゲーム関連の雑誌などに記事を書いており、マニアの間では著名な存在という。

 生活経済課の調べでは、石渡容疑者ら3人は昨年6~11月、海賊版ソフトを売って得た違法な収益25万円を、櫛引容疑者名義の銀行口座に隠した疑い。櫛引容疑者は昨年11月、違法収益130万円を受け取った疑い。口座に入金されていた約860万円のうち約610万円が犯罪収益と確認された。

 石渡容疑者は調べに、「半年で1000万円を売り上げた」と供述。違法に複製したソフトは任天堂の「スーパーマリオブラザーズ3」など約36種類に及んでいた。

しかしこれ、ぶっちゃけ言うと私も危なかったです。

イシワタ君と絶交した私ですが、高校二年生の時に一度だけ電話がかかってきたことがあったんですよ。

『やあ久しぶり、元気にしてる?』っていう感じで。

私はもう別の親友がいましたし、また付き合うつもりなんてさらさらなかったんで電話はすぐ切りましたが、思い返せばあれは仲間に勧誘する為の電話だったのかもしれません。いや、多分そうに違いないと思います。

もしあの時にまた会っていたら、私も一緒に逮捕されてたかもしれません。

彼も今は私と同じで中年のオジサンになってるはずですが、前科持ちでどんな生活をしてるんでしょうか。

今もたまに、泣きじゃくるお母さんの顔を思い出すのです。

ほろ苦い思い出さ…。