『草食系男子』に関する考察

恋愛に積極的ではない男性のことを草食系男子とか言いますが、この言葉が初めて登場したのは2006年のことです。(ライターの深沢真紀によって)

その後、新聞やメディア、テレビなどで盛んに取り上げられ、2008~2009年には大流行しました。2009年のユーキャン『新流行語大賞』にも草食系男子というワードがランクイン。

同時期に『別冊花とゆめ』では可愛いものが好きで料理・裁縫など家事全般に才能を発揮する男子を取り上げた『乙男おとめん』というマンガも大ヒット。

他にも全く恋愛に興味を示さない『絶食系男子』や、逆に男性に激しいアプローチをする『肉食系女子』といったワードも副次的に流行し、現在では普通名詞化しています。

本記事ではこのような概念の登場による恋愛価値観の変化と、現代社会に対する影響を考察してみました。どうせ誰も読まないんだろうけど。

恋愛に対する価値観の変化

かつて、戦後の日本では『男は外、女は家』と性差による役割分担がはっきりしていて、男性はもっぱら働き手として大黒柱を担うことが期待されました。

しかし高度経済成長に伴って社会の在り方は変化していき、女性の社会進出が当然になり、現代では共働きの家庭がすっかり一般的になっています。これにより現代の女性は『男性に頼らなくても生きていける』生活力を確保しており、結婚に対する必要性が下がって来ました。

この辺は日本の少子化理由の一つとしても挙げられます。また同時に『結婚相手を女性が選ぶ』という社会背景の後押しをしているとも考えられるでしょう。

総務省統計局「労働力調査特別調査」、総務省統計局「労働力調査(詳細集計)」

これによって大衆の心理にどのような影響があったかというと、社会の働き手の立場を確保した女性にとって、『グイグイ引っ張るような』男らしい、エネルギッシュな男性を求める機会が減少したのではないのでしょうか。それよりはむしろ心の優しい、家事を分担して行ってくれるようなパートナーの人気が高まって来たかのように思います。つまり草食系男子がモテるようになったということです。

実際、大学生約300名を対象にした研究では多くの女性が、旧態依然としたエネルギッシュな男性ではなく『草食系男子』や『オトメン』とカテゴライズされた中性的な男性に魅力を感じる傾向を示しました。(“魅力を感じる男性像" 2011 赤澤淳子:仁愛大学)

しかしこれだと ①女性の社会進出 ②男性に求められる価値観の変化 という時系列になりますが、私の個人的な体験からすると平成期における美的感覚の変容も一因なのではないかと思います。

草食系男子という言葉が初登場したのは2006年ですが、それ以前にも社会では木村拓哉や江口洋介が長髪にしてメディアに露出し俗に『ロン毛』と呼ばれるヘアスタイルを一般的にしました。

また、SHAZNAしゃずな(今の若い子は知らないよね…)が1997年にブレイクするとV系バンドという言葉も定着。X-JAPANに代表されるように、男でもピアスや化粧をしてファッションを楽しむ風潮が浸透しました。

このあたりの要因も『男はたくましく、タフであるべき』という日本古来の価値観を払拭して来たのではないかなと思います。

草食系男子の定義

草食系男子と一口に言ってもその中身は様々です。森岡正博(早稲田大学人間科学部)はまず、草食系男子の特徴を以下のように側面化しました。

  • 心が優しい
    ⇒弱い立場の人の身になって考えたり、傷ついた生き物を守ってあげたいと思う。常に対話をして、お互いの気持ちを確かめ合いながら人間関係を作っていきたいと思う。
  • 男らしさに縛られない
    ⇒戦うことができ、頼もしく、女性をグイグイ引っ張っていくような男らしさを、あまり持ち合わせていない。
  • 恋愛にガツガツしない
    ⇒女友達とのいい関係を性的欲望で崩さない。時間をかけて恋愛を作り上げていきたいと思う。
  • 対等な女性観
    ⇒女性を女として見る前に、一人の人間として見ることが自然にできる。
  • 傷つくのが嫌い
    ⇒恋愛によって自分が傷つくことや、自分の行為によって女性が傷つくことが苦手。自分や相手を傷つけたくないから恋愛に消極的。

また森岡は、男性を草食系と肉食系に2分類するのは無理があると考え、恋愛に対し『奥手なタイプ』と『経験豊富なタイプ』に大別し、更に見た目と内面を細かく分けて8パターンにカテゴライズしました。

恋愛種類特徴女性のアプローチ方法
奥手草食系女性にどう接近していいか分からない。まずは女友達として仲良くなる。女性がどんなことを考えているか伝えて話し合う。
経験豊富草食系癒し系。女性に過度の期待を抱いていない。ゆっくり時間をかけて関係を築く。じっと待つこと。テクニックは通用しない。
奥手肉食系押しの一手に頼る。内にこもって悶々とする。受け身のまま男性を誘導する。女性の扱いが不器用なのでスマートな態度を取るよう話し合う。
経験豪富肉食系ダメ元でも女性を誘惑してみる。次々と口説く。スキを見せてサインを送る。結婚しても浮気や風俗は覚悟すること。
奥手中身草食系・見た目肉食系男らしくなろうと努力しているがまだ経験不足。女性が何をして欲しいのかきちんと伝える。育てがいのある男性。
経験豊富中身草食系・見た目肉食系 心は繊細だが女性を楽しませることができ、長続きする。内面的な魅力を磨き、尊敬され癒しを与えられるよう努力する。
奥手中身肉食系・見た目草食系普段は仮面をかぶっているが、2人きりになると襲ってくることがある。可愛くふるまう。浮気しないよう引き留める努力が必要。浮気に気を付ける。
経験豊富中身肉食系・見た目草食系 心に野獣性を持つが女性に気を配って優しくすることが出来る。独占することは不可能。

なんで女性のアプローチ方法まで記載しているかは謎ですが、自分に近いタイプ、好きなタイプをこの表から探してみるのも面白いかもしれません。

森岡は草食系男子の特徴を掴む為にインタビューを直接行い、『女性の外見にあまり重きを置いていない』という回答を複数得ました。他にも、俗っぽく言えばギャルっぽい、つまり女っぽさを前面に押し出した女性はニガテという回答も得ました。これについては相手が女性らしさを強調していると『自分も男らしさを強要されるのではないか』という苦手意識が背景にあるそうです。

更に面白いのは『女性から誘惑されると恐怖を感じる・気持ちが萎える』、『いい関係になっても性的コミュニケーションが必要なのかどうか考えてしまう』という、ある種非常に消極的な回答もあったことです。

これだけ聞くとなんか陰キャの集まりみたいに思いますが、恋愛経験豊富な草食系男子というのも居りまして、そういったタイプは逆に『恋愛をする気持ちになれない』という想いを抱えていたそうです。これらを森岡は『草食系男子にも多様性があるのだろう』と締めくくっています。

正直草食だろうが肉食だろうがモテるかは顔次第じゃね?と思ったり。

草食系男子は増えているのか?

それでは実際に、女性からの人気が高まっている草食系男子は増加しているのでしょうか?答えはNOです。

日高優(立教大学)らは2015年に、大学生315名を対象にして草食系男子増加に対する意識の変化を研究しました。その結果、草食系男子が『増えたと思う』と答えた青年は2人に1人とかなりの数を記録しましたが、その論拠は『テレビでよく見るから』、『周りからよく聞くから』といった伝聞の他、メディアでよく取り上げられる草食系男子の特徴と一致しており、悪く言えばメディアに踊らされた結果だということが解析されました。

それとは対照的に『変わらない』もしくは『減った』と回答した青年の論拠は自分の経験に基づくものがメインであり、恋愛経験の豊富な人ほど草食系男子は大して増えていないと実感していることが示唆されたのです。

これは『肉食系女子』についても同様で、3人に1人が肉食系女子(恋愛に積極的な女性)が増えたと回答しましたが、内容はやはりメディアの言論や風説と一致するものが多数であり、恋愛経験豊富な青年ほど大して変わっていないと回答したのです。

すなわち、過去から草食系、肉食系といった恋愛傾向は存在しておりその数は変わっていないのではないかと日高らは考察しています。

引用元:https://blog.goo.ne.jp/es-g-ld/e/195cb2ec299a2a66577d47b94c564666

まとめ

本記事では草食系男子が女性にとって歓迎される傾向にあるということを紹介しました。また、草食系男子が増加していると感じる青年の多くはメディアの言論に踊らされた格好であり、実際に恋愛経験豊富な青年の意識下では増加はしていないということも併せて紹介しました。

ここから私の個人的な意見ですが、あまり草食系男子が持て囃されるのもどうかなと思うのが正直なところですねぇ。日本男性は元々イタリア人みたいに女性にガツガツしないイメージがありますが、ストイックな方がカッコいいっていう風潮があるのかも。それかキリスト教圏の影響とか。

お前らみんなパコれ!と言いたいワケでは決してありませんが、日本は婚姻率が低下の一途を辿っており、新生児の出生数も年間80万人にまで減少しています。中国やインドを見れば分かりますが基本的に人口が増加しないと国は発展しませんから、このまま超少子高齢化社会となって経済が破綻するのも時間の問題です。

『肉食系男子が今ブーム!』みたいなメディア特集も組んでみたらいいんじゃないでしょうか。

フラれるのも人生経験だわさ