正しい人事評価、受けてますか?

学生なら学校で先生から、社会人なら仕事場で上司から、様々なシーンで人から評価を受けるケースがあると思います。しかし、他人を評価するにあたって必要な知識を持っている評価者というのはほとんどおらず、大抵は上司とゴルフに行く回数の多い人が昇進したり、明るくていつも笑顔な子が高評価だったり、そんな感じなのが実情です。(少なくとも私がこれまで経験した限りでは)

中には「それも含めてその人の才能」と開き直ってしまう評価者もいます。しかしそれは危うい考えです。人によって評価の基準が違ったり、考課結果に差がなかったり、単なる点数付けに終わっているようですと納得性が下がり、評価を受ける側にも不満が溜まります。

特に心理学の分野では対象の思考や行動を正しく評価しなければ研究そのものの論理性が損なわれてしまう為、未だに未解決のテーゼとして様々な考察が進められています。今日はそうした心理学の知識と絡めて、正しく評価する基準とは何かご説明します。

様々な評定エラー

何かを評価するにあたり、それを阻害する要因を認知バイアス(歪み)と呼びます。まずはどんな評定エラーが存在するか羅列してみましょう。評定エラーには意識的なもの、つまり評価者が自覚出来るものと、そうでないものがあります。

意識的評定エラー

  • 無責任型誤差
    →人事考課の目的や手法を理解しようとせず、評価すること自体を放棄してしまっているタイプ。部下から嫌われたくない上司とかに多い。要はやる気がない評価者。
  • 逆算割り付け型誤差
    →結果ありきで評価をつけているタイプ。例えば、『一番優秀な部下は給料をアップさせよう』と決めたらその結果になるように評価をつける。本来は評価→結果(給料↑)なのに逆になっているということ。
  • 感情的あるいは防衛的要素
    →要はスキキライ人事。ものすごい多い。ゴマすりが上手な人が昇進していくアレ。もしくは『こいつを昇進させたら俺が追い抜かされてしまう』という考えで低評価をつけるようなケースのこと。

無意識的評定エラー

  • ハロー効果
    →何かを評価する時、対象が持つ別の特徴に引きずられて評価してしまうケースのこと。分かりやすい例を挙げると、全く同じ成績でも見た目がイケてる方が高評価を受けたりするケース。
  • 過大評価
    →何か一点が優れていると、他の点についても高い評価をつけてしまうようなケース。営業成績が優秀だからといって勤務態度も高評価になる場合など。
  • 寛大化傾向
    →例えば10点満点の評価なら、どんな人間にも8~10点をつけてしまうようなケース。評価者と被評価者が同じチーム内で長く働いている場合などに見られる。オトモダチ評価。
  • 中央集中化傾向
    →例えば『良い』『普通』『悪い』という評価基準があった場合、極端に『普通』が多くなるケース。良いものは良い、悪いものは悪いとハッキリ言えないタイプに多い。
  • 二極化傾向
    →中央集中化と逆に、少しでも良いと最高評価、悪いと最低評価になるようなケース。世の中には善と悪の2つしかないと思っているような評価者に多い。中庸的判断が出来ない。
  • 論理的誤差
    →独自の論理を用いて評価するケース。例えば、『〇〇くんは休みが多いからだらしない性格に決まってる』などと決めつけてしまう場合を指す。
  • 近接誤差
    →つい最近起きたことを印象に評価してしまうケース。例えば一年間成績優秀だったのに、つい先月たまたま仕事で失敗した部分を槍玉に挙げて低評価をつける場合など。
  • 対比誤差
    →自分と比べて評価してしまうケース。『自分だったらこのくらい出来るのに』という感覚で不当な評価をつけてしまう。評価者が自信過剰な人物だったりすると殊更タチが悪い。
ハロー効果の『ハロー』は天使の輪の意味。後光が差しているように見える人には高評価しがちということ。

じゃあどう評価したらいいのか

では、上述のような評定エラーを避けて正しく人物を評価するにはどのようにすればいいのでしょうか。心理学ではAHP(Analytic Hierarchy Process)という手法を一つの解決手段として提唱しています。日本語で書くと階層分析法です。

ハロー効果とは印象効果ともいわれ,ある一面が特に優れていると,その部分的印象だけで全体的印象を形成してしまう誤まりである。逆に,全体的印象に対する先入観で部分的特性までもみてしまう誤まりである。諺の「坊主憎けりゃ,袈裟まで憎し」にある如く,古今東西誰でも犯しやすいエラーである。これに対し,論理的誤差は,記憶力の強い人間は理解力,判断力が高いとか,深い専門知識をもっ人間は職務知識もよく身につけているなどと結びつけてしまうエラーである。論理的エラーとハロー効果はよく似ているようだが,ハロー効果の場合,ある特定の人物についてのみ評点をよくするエラーであるが,論理的誤差の場合には特定の人物に限定されず,関連するいくつかの評定要素間に誤った評価が行なわれる特徴がある。

近接誤差もわかりやすいエラーで,たとえば,人事考課票の「表現力」と「企画力」の二つの要素が並んでいたとすると,表現力と企画力に強い相関関係があると考えた考課者は,両要素を同じように高い評価にしてしまう。また,時間的に近接していることにより生ずるエラーのことを指す場合もある。たとえば,非常に優秀な人物の直後に評定された人物の評価は実際よりも低くなったり,逆に,非常に劣る人物の直後に評定された普通の人物が優になったりする。

以上の評定エラーは学生の評価をする場合,常に発生しているエラーでもある。これらのエラーが発生する原因はどこにあるのであろう。我々は,最大の原因は評価方法にあると考える。一般に,人事考課を行なう場合は, 1人の被考謀者に対して,理解判断力,統率力,責任感などの評定項目各々について 5段階評価で絶対評価を行ない,各評価項目にウェイト付けして総得点を与え,次の被考課者の評定へ移行してゆくであろう。

従って,統率力があるから即ち責任感があると思ってしまう論理的エラーや近接エラーが発生する。また,被考課者に対してもつ全体的印象から,統率力,責任感などすべてを高く評価してしまうハロー効果も起こりうる。

我々が,試験を採点する場合も一人の学生の採点が終ってから次の学生の採点に移る評価方法をとっているはずである。しかし,ハロー効果,論理的エラーなどを防止するためには, 1つの評価項目,たとえば,理解判断力だけについて評定を進め,部下全員を理解判断力だけについて評定し終えたら,次の統率力に移行する評価方法をとる必要がある。

次に, 5段階あるいは10段階評価などの絶対評価の問題である。定量的尺度のない評定項目に対して絶対評価をすると,部下一人ひとりの人事考課結果も,部下全員の結果も平均に近つけてしまう傾向, 即ち,中央集中化傾向が表われる。このことは,多くの心理学的実験でも実証されている。

著者の一人も体験したことであるが,デパートでソファーを選ぶときに,座りごこちについてはどのソファーも可も無し不可もなし といった評価になってしまう。しかし, このソファーは,あのソファーに比べるとやや良し、程度の比較はできる。つまり,対比較は比較的正確に行なうことはできる。人事考課においても中央集中化傾向を防ぐためにも,絶対評価ではなく,一対比較法が用いられるべきである。

AHPは,一対比較をくり返し行なうことにより絶対評価が得られるユニークな手法である。

引用元:人事考課への AHPの応用について(愛知工業大学)

色々とややこしいことが書いてありますが、例えば人事評価のシーンであればこのような基準になります。

このように企業方針を分析目的とし、理解判断、統率力などの評価基準にウェイト(大切さ)を数値でつけて、代替案(人間)を比較します。これはそんなに難しいことではなく、ネット上にはAHP用のソフトがいくらでも転がっています。(無料のものもあります)

AHPを考案したのは、数学者・OR研究者で米国ピッツバーグ大学カーツ経営学大学院主任教授のトーマス・L・サーティという人です。米国防総省や国務省で対ソ戦略や軍縮問題に取り組んだ経験のあるトーマス教授は、1971年に、構造がはっきりしない意思決定問題にも適用できる方法としてAHPを発表しました。その後もAHPの研究と普及に力を入れました。

AHPのメリット

AHPのメリットは、個人の中の見えない要素、経験や知識、事例を数値化することで『見える化』が出来ることです。これにより評価の妥当性と納得性を客観的に評価することが出来ます。

また、意思決定のプロセスが明確になるので評価基準を吟味し易くなり、基準が明確になるので議論の促進を図ることが出来ます。

AHPは人事評価以外にも、国家の軍備戦略や企業の経営計画、果ては個人の買い物の意思決定にまで幅広く研究・活用がされています。

結婚相手に迷った時もAHPを活用してみよう。

まとめ

今回は人事評価に関する問題と、それの解決方法としてAHPをご紹介させて頂きました。何かの意思決定に困った時は、是非このように心理学を活用してみて頂けると幸いです。

人事部の人に「AHPって知ってますか?」ってマウント取るといいよ