ガチャで身を滅ぼした人たち

昔、オンラインゲームと言えば月額課金が基本でした。初代モンスターハンターにせよラグナロクオンラインにせよウルティマオンラインにせよ、大体毎月1200円くらい払えばゲーム内の制限というのは特にありませんでした。すべてのレアアイテムは努力すれば誰でも入手する機会があったのです。

しかし2004年に登場したメイプルストーリーは初めてゲーム内で課金アイテムを販売するという仕組みを導入し、それから各種オンラインゲームをはじめとして『ソシャゲといえばガチャ』が主流となりました。

ガチャの恐ろしいところは企業側が言葉巧みに課金するようユーザーを誘導し、オンライン上で支払い決済が完了してしまうところです。また、クレジットカード等を持っていない子供でも、コンビニでiTuneカードやGooglePlayカードを買えば気軽に課金出来てしまいます。

今回はそんなガチャで身を滅ぼした逸話その心理を紹介したいと思います。

“デレステ"で自己破産

はてな匿名ダイアリー(https://anond.hatelabo.jp/20211014224316)の記事より。

こちらの方は有名なソシャゲであるFGOから徐々に課金沼にハマり、最終的に『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』(通称:デレステ)で自己破産にまで追い込まれてしまいました。家族がうつ病で職場環境が良くなかったことから、ストレス解消の為に課金を繰り返してしまったのでしょう。

最終的にいくら借金したのかは不明ですが、少なくともカードローン130万を使い切った上で、多い日には一日40万円使っていたということなので、最終的には相当の金額だったのでしょう。100万円程度なら弁護士は自己破産は勧めませんからね。

『ソシャゲ課金で自己破産は出来ない』というのが通説(法律の定める免責不許可事由に該当することから)ですが、このブログを読む限りは問題なく出来てしまうみたいですね。

私も金融業ですが、自己破産というのは本当の本当に最後の手段です。借金はすべて消えますが社会はそんなに甘くはありません。いわゆる『ブラックリスト』というものは特に存在しませんが信用情報に記録されるので、携帯や車などの分割払い、保険契約、住まいの賃貸契約などは最低でも5年間出来なくなります。

本当に身の詰まるようなお話ですね。

多い日で一日に40万程使っていた。9万の天井四回してスカウトした。

もちろん給料が高いわけじゃない。ずっとお金のことを考えていたし、クレジットカード会社からの督促の電話が日中鳴り止まず、かなり滅入っていた。

この生活が終わったのは、友人が異変に気づいてくれたからだ。区の生活相談に行くように言われ、電話で予約して話をしたところ、弁護士を紹介された。

そこで話を聞いてもらい、自己破産を勧められた。自分が使ったお金を払わないことに抵抗がなかったわけではない。しかし、自己破産をするともうクレジットカードが使えなくなるらしい。それは蜘蛛の糸のような情報だった。私はもう課金をしたくなかったのだ。

家族がいて、世帯年収があったせいで法テラスは使えず、保健を解約して50万かき集めた。そのお金で法的措置をとり、晴れて借金のない身になった。

話はここで終わり、めでたしめでたし…ではない。私はまだ課金が辞められずにいる。銀行から送られてきたデビットカードで、先日も一日で四万溶かした。ちなみに今は家族と縁を切って無職である。

怖くなったので、友人にお願いしてアカウントを預かってもらっている。アンインストールじゃだめなのだ。ここまでしないと止める事ができない。

こういうのをギャンブル依存症と言うらしい。カウンセリングも受けたが、通うのが辛くてもう行っていない。依存症も完治はない。多分もう治らないんだと思う。

持病があって、ギャンブル依存症で、無職。我ながら生きてる価値が無いように思う。だって携帯電話ひとつ契約できないのだ。

その内、できるだけ誰にも迷惑がかからない方法でひっそり命を絶てたらいいなと思っている。

引用元:https://anond.hatelabo.jp/20211014224316
可愛いアイドルが躍るデレステ。"推し"にならいくらでも金をつぎ込むという人は後を絶たない。

“FGO"に400万円

次もはてな匿名ダイアリー(https://anond.hatelabo.jp/20181224032047)の記事より。

『Fate/Grand Order』(通称:FGO)に一年半で400万円もつぎ込んでしまった女性のお話。自分で稼いだお金なのだから、という気持ちで後悔せずに課金を続け、毎月10万以上が飛んで行っても気にしなかったそうです。

でも、その後に人生のステージが変わり(察するにご結婚とかでしょうか)、現在ではこの400万という貯蓄を失ったことをひどく後悔しているそう。

最初は3万円だけ…と思ってもやめられない。そんなガチャ依存を感じるお話です。

FGOの事はいまでも好きなんです。

けれど、手に入った鯖を育成もせず、ストーリーも進めず、美味しいイベントもせず、ただガチャだけを我慢できずに回している私は、何のためにゲームを遊んでいるんでしょう。

ゲームに飽きているのにガチャだけがやめられないんです。

そんなFGOを消せないのは、まだFGOをプレイしたい気持ちがあるからです。いま読まないメインストーリーを、いつかまた読み始めたいと思っているからです。

私の400万を返せ、なんてことは一切思わないけど、FGOを知らなかった、課金なんてした事のなかった頃の自分に戻りたいな、とは思います。

なんでこんなことになってしまったのかな。

引用元:https://anond.hatelabo.jp/20181224032047
大人気シリーズのFGO。女性ファンも多く今回のようなケースはよく聞く。

“星のドラゴンクエスト"に82万円

借金おじさんBOLさん(https://sib-management.com/)の記事より。

こちらの方は『星のドラゴンクエスト』というソシャゲにハマり、天空の剣という武器を完凸させる為に82万円も浪費してしまいました。目的を達成する為に固執してしまい、途中からお金を使っている感覚がなくなったとのことでした。

引用元:https://sib-management.com/debt-repayment-17/1002/

その他にもギャンブル癖があったようで、2021年9月の時点では借金額約40万円に対して総資産額は約10万円のみ。

彼女の家に転がり込み家賃を削りながらコツコツと借金返済を続けているようですが、そろそろアラフィフというご年齢だそうなので老後資金を貯めるのはなかなか難しそうですよね。

幸いにもあと4か月で借金を完済出来るということなので身を滅ぼした…とまではいってなさそうですが、何とも課金額がリアルな数字です。

ガチャ課金はゲーム業界の闇だ。

ガチャで獲得したアイテムはただのデータで形もなにも残らない。
普通ゲーム内のアイテムデータを82万円も払って買うだろうか?

もちろん払うわけがないがガチャではなぜか当たる気がして、10連ずつ回していると段々と熱くなりヤバいと思いながらも後に引けなくなっていく。

ガチャは当たり前にできるはずの判断能力を狂わせる。
もちろん全員がそうではないが一定数は俺みたいな馬鹿なやつがいる。

ガチャという課金システムは欲求スイッチが入って普通の判断ができない馬鹿が簡単に課金するということをゲーム会社は知っている。

星ドラの後も「ドラゴンクエスト」のタイトルで集金ゲーをどんどん作っているということは、俺のような馬鹿が沢山いて簡単に集金できているのだろう。

82万円もあればなにができたであろうか?

彼女がいつも行きたいって言っているハワイ旅行も余裕で連れて行けただろうし、旅の思い出を何度も話しながら死ぬまで思い出に残っただろう。

ガチャ課金は自己責任。

それは分かっているがこんな危険な集金ゲーが大した規制もされずに何年も放置されていていいのかと思う。

youtubeではゲーム実況者が毎日のようにガチャ動画をアップしている。
1万円の課金がスキップ機能で1分もかからず消えていく。

そんなのが当たり前になっていいのか?

ガチャで10連といえばだいたいどのゲームも相場は実質3000円と足並み揃えてくる。
何が当たるかわからない抽選のアイテム(ほぼゴミ)。
存在もしない、しかもゴミのくじ10回に3000円の価値なんてあるはずもない。

気軽にできるスマホゲームだからこそ距離を置きにくく危険だ。

引用元:https://sib-management.com/debt-repayment-17/1002/
ドラクエと言えば老若男女に親しまれるタイトル。だからこそ課金の落とし穴に落ちる人も多い。

ガチャを回してしまう心理

少額課金とサンクコスト

課金ガチャの心理について研究している論文は少ないですが、以下のようなものを見つけました。

こちらの表は2017年に研究された、『ガチャを回してしまう動機』を項目毎にまとめたものです。

引用元:課金ガチャの心理学 (加地雄一) 2017

数字が小さいほど否定的で、大きいほど肯定的という指標になっています。ランキングで言うと『強いキャラが欲しい』>『キャラのデザインが良い』>『新しいキャラが欲しい』という順番になるでしょうか。

特筆すべき点はゲームを有利に進めたいというより、個々のキャラクターに強く依存している傾向があるところでしょうか。まあこの辺はそもそもどんなゲームを指標にしているかによって変わってくると思いますが、今回紹介した『デレステで破産した人』なんかにも結び付く結果かと思います。

別の視点で、行動依存症などについて研究しているD.KingとP.Delfabbroはガチャに課金してしまう心理の原因を著書“Internet Gaming Disorder"インターネットゲーム障害の中で『少額課金』と『サンクコスト』という言葉で説明しました。

『少額課金』というのは理屈は簡単で、例えばガチャ1回なら300円とコストを企業側が低く設定していることです。皆さんも経験ありますよね?ソシャゲをインストールするとまずチュートリアルが始まり、終わったら無料でガチャを引かせてもらえる。最初のガチャは必ず当たるようになっていて、レアキャラが1枚無料でもらえる。ここでます射幸感を与えるワケです。

次に『初回のみジュエル半額!』とか『初課金で更に1枚レアキャラ確定!』といった“釣りエサ"をこれみよがしに出して来て、最初は少しづつ課金に誘導していくワケです。そして『あと10連くらいなら…』といった気持ちにさせて課金へのハードルを下げていくという流れです。

『サンクコスト』というのは…実際に私の体験談を語りましょう。あれは10年くらい前でしょうか。私はモンスターハンターフロンティアというXBOXのゲームにハマっていました。

このゲームも課金圧がすさまじく、かっこよくて強い装備を揃えるにはガチャを回して『武具チケット』というものを集める必要がありました。モンハンの武具はアタマ、上半身、腰、下半身、腕と5つの部位に分かれていて、全身を同じ種類で集めるには同じ武具チケットを5枚ガチャで当てないといけないんですよね。1つでも揃わないと見た目がダサくなりますし強いスキルを発動させることが出来ないんです。どうしても欲しい装備があった私は、なかなか全身が揃わなくて一気に3万円課金した思い出があります。

幸か不幸か3万円で揃ったので良かった(?)のですが、あの時は『いくらかかっても絶対に全身揃えるんだ!』という気持ちに取りつかれてしまってましたね。3万円といえば新しいゲームが4~5本買える金額です。

このように、ある程度課金をした段階で思いとどまればいいものを、『もう少しガチャを回せば目的が達成出来るかもしれない』、『今やめたらこれまでの課金が無駄になる』と後戻り出来なくなる現象をサンクコストと言います。

現代のソシャゲもキャラの完凸とよく言われるように、特定のレアキャラを何度も引き当てないと能力を発揮出来ない仕様になっているのが大半ですね。

完凸まであと一枚なのに…!なんて経験をした方は多いんじゃないだろうか。

承認欲求について

他に挙げられる要因として、SNSなどを眺めていると承認欲求が課金への動機づけとなっている可能性があります。

よく見かけるのは『最新のレアキャラを引き当ててツイートするといいねがいっぱいもらえて嬉しい』とか、『他のプレイヤーを強いキャラでやっつけるのが楽しい』といった意見です。

先述のモンスターハンターフロンティアの件でも、課金すると得られる装備ってピカピカ光ってたり羽根が生えてたりと明らかに汎用装備よりデザインが秀逸に作られてるんですよね。そういった装備を揃えてロビーを歩いているとスゴイ!カッコイイ!って仲間からもてはやされるワケです。

日常的に適切な承認欲求を満たされている人ならそれほど固執することはないと思うんですが、やはり他人から賞賛されるのは誰でも気持ちがいいですからね。

実際にコンピューターサイエンスについて研究しているヨーク大学のD.Zendleは2019年に発表した論文の中で、ゲーマー1000人に対して取ったアンケートの結果、このような承諾欲求が課金への動機づけになっている可能性を指摘しています。

様々な謳い文句で課金欲を刺激するモンスターハンターフロンティアの広告。

社会に求められる規制

こういった年々加速するソシャゲ市場に対して、何らかの法規制が必要なのではないかという声が挙がっています。私もどちらかというと賛成派です。

例えば金融業界では、基本的に消費者の利益を保護する姿勢が求められます。具体的には、お金を借りる場合は自分の年収の3分の1を超える金額は借りられません。これを総量規制と言います。

車とか家を分割払いで購入する場合でも、企業側はその人の年収や生活維持に必要な金額を算出し、それを超えないように、その人の生活が破たんすることがないように審査を行って契約を行います。これは法律上のことなのでどの企業でも100%やってます。

しかしソシャゲについてはそういった法規制は何もないので、極端な話貯金を使い切って破産しようがホームレスになろうがすべて自己責任で済ませてしまいます。こういった問題を国が放置していていいのかという疑問が残ります。まあパチスロとかも同じ問題を孕むんですけどね。

皆さんもガチャに没頭してヤバいなと思うことがあれば、本記事を思い出して頂けると幸いです。

家庭用ゲームは無課金でイイゾ~