【2023年度導入】インボイス制度でフリーランス全滅?

2021年11月25日

あんまりニュースでやりませんが、2023年度から『インボイス』と呼ばれる制度が導入されることが決定しています。このインボイス制度って一体なんなんでしょうか。

一部では「フリーランスや個人事業主がみんな死んじゃう」なんて騒がれてますので、気になって色々と調べてみました。専門ではないので誤りがあったらすみませんが、なるべく分かりやすく砕いて説明したいと思います。

約6割の企業が「よくわからん」と回答しているインボイス制度。

インボイス制度とは

国税庁のホームページでは以下のように説明しています。

適格請求書(インボイス)とは、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるものです。
具体的には、現行の「区分記載請求書」に「登録番号」、「適用税率」及び「消費税額等」の記載が追加された書類やデータをいいます。

<売手側>
 売手である登録事業者は、買手である取引相手(課税事業者)から求められたときは、インボイスを交付しなければなりません(また、交付したインボイスの写しを保存しておく必要があります)。

<買手側>
 買手は仕入税額控除の適用を受けるために、原則として、取引相手(売手)である登録事業者から交付を受けたインボイス(※)の保存等が必要となります。
(※)買手は、自らが作成した仕入明細書等のうち、一定の事項(インボイスに記載が必要な事項)が記載され取引相手の確認を受けたものを保存することで、仕入税額控除の適用を受けることもできます。

引用元:国税庁ホームページ

うん、なるほど…これだとよくわかりませんね。

噛み砕いて説明

ザックリ説明すると、今まで消費税を免除されていた年間売上1000万未満の『免税事業者』が消費税を国に収めなくてはいけなくなってきます。

例えば商店街で野菜を売ってる八百屋さんが居たとします。この八百屋さんは毎年農家から野菜を100万円+消費税10万分買っていました。そしてそれをお客さんに500万円+消費税50万円で売っていました。(本来は消費税8%ですが分かりやすく10%にしときます)

消費税というのは『国の代わりに集めた税金』なので本来は八百屋さんはお客さんからもらった50万円を国に払わなくてはいけないのですが、『仕入れ額控除』という仕組みがあり、50-10=40万円だけ国に払えばいいという状態でした。

しかし2023年からは『適格請求書インボイス』という面倒くさい書類を農家からもらわないと、この10万円を支払う義務が生じてきてしまうのです。つまり、八百屋さんは10万円損することになってしまいます。

適格請求書を発行出来る条件

「じゃあ、ちょっと面倒だけど農家から適格請求書を発行してもらえば今まで通り消費税10万円は免除されるんだね」と思うかもしれません。しかしここで大きな落とし穴がありまして、適格請求書は消費税の課税事業者でなければ発行出来ないという取り決めが存在するのです。

  • 免税事業者→消費税を一切払わなくていい事業者
  • 課税事業者→消費税を払わなきゃいけない事業者

ここでポイントなのは、免税事業者になれるのは年間の売上が1000万未満の、細々とやってる事業者だけという点です。つまり国から『君はあんまり儲かってないから消費税はサービスしてあげるよ』という制度ですね。

さて、農家サイドに視点を変えてみましょう。八百屋さんに野菜を売ってる農家はそれほど儲かってないので『免税事業者』でした。

しかしインボイス導入後は八百屋さんに「10万円損してしまうので、適格請求書を発行してください」とお願いされました。でも農家は免税事業者なので発行が出来ません。

ここで農家が対応を迫られる選択肢は2つ。

  • ①課税事業者になって適格請求書を発行出来るようにする。
  • ②免税事業者のまま、八百屋さんとうまく交渉する。

①が手っ取り早いように感じますが、免税事業者から課税事業者になってしまうと、八百屋さんからもらい得だった消費税10万円を農家は国に収めなくてはいけなくなります。この農家は他の八百屋さんとも取引していたので、絶対に課税事業者にはなりたくありませんでした。

そこで農家が八百屋さんに「ウチは免税事業者のままやらせて欲しいんですわ」と言ったとしましょう。すると八百屋さんから「ふーん、じゃあ適格請求書くれるところと取引するからアンタはもうええわ!バイバイ!」と取引を打ち切られてしまう可能性が出てきます。

そこで出て来るのが②です。この辺は両者の力関係によりますが、例えば農家が「じゃあこれから売る野菜は10万円分値下げするから取引打ち切らないで!」と八百屋に持ち掛けるケースなんかが考えられます。

まあ、どっちにしろ農家は損することになります。

適格請求書には『ウチは課税業者ですよ』という証明の登録番号が必要。

インボイス賛成派の意見

まぁこんな感じで税金の大幅アップなイメージのインボイスですが、賛成派の意見もあります。それは主に『益税えきぜい』という日本独特の風土が関係しています。益税というのは『本来国に支払われる消費税が、事業者の儲けになる』ということです。

細かい話はすっ飛ばして説明すると、免税事業者は国に消費税を納める必要はありませんが、お客さんから消費税を取ることは法的に問題ありません。乱暴に言えば、消費税という名目の追加料金ですね。つまり消費税をもらえばもらうほど、そのまま自分の懐に入ってくるんです。さっきの農家の例でいう10万円です。

日本で最初に消費税が創設された時、色んな事業者が大反対しました。それはまぁ当たり前ですよね。しかしそういった声を静める為、『免税事業者は消費税をお客さんから取って自分のものにしていいよ』という仕組みを作り出したのです。これにより美味しい想いの出来る事業者は度重なる増税にも大して反対しなくなりました。

ただこれには色々と問題があって、消費税というのは本来『国の代わりに事業者がお客さんから集める税金』ですから、そういった風土が広がると正しい税収が計算出来なくなり、様々な不都合が生まれて来ます。

こういった不公平性を是正し消費税の適正化を目指すべきというのがインボイス賛成派の意見です。インボイスを導入することで免税事業者の制度自体が撤廃されるワケではないですが、適格請求書の存在により詳細に税収を国が把握することが出来ます。

ちなみに蛇足ですが、稀に「本来払うべき消費税を払っていないのはおかしい」という意見がありますがそれはちょっとズレてて、免税というのは国から認められた制度なのですから、免税事業者を脱税行為みたいに叩くのはおかしいかと思います。

インボイス制度の影響を受けるのは?

インボイス制度の影響を受けるのは言うまでもなく免税事業者の人たちです。具体的には年間の売上が1000万円以下の個人事業主となります。年間売上が1000万以上あるフツーの企業とかは免税事業者にはなれませんからね。言うなれば、フリーランスのプログラマーとかウーバーイーツの配達員、個人タクシーなどがほとんど影響を受けるでしょう。日本には大体500万人の免税事業者が存在するとされています。

要注意なのは『売上』が1000万円以下かどうかというのが免税事業者の指標であって、利益ではないところに注意しましょう。例えば毎年野菜を900万円売り上げてるけど仕入れに800万円かかっていて、毎年100万しか儲かってない八百屋も影響を受けます。

ウーバーイーツの配達員なんて悲惨です。配達員はみんな免税事業者扱いなので、親であるUberは配送料を支払う時に消費税分を上乗せして計算する必要がありませんでした。しかしインボイス導入後は『配達員に消費税を払わないといけない』という状態になるので、配達員に課税事業者になって適格請求書を発行してもらうしかありません。

でもそんな面倒くさいことをいちいち配達員にさせるワケもないので、結論として『配送料金の引き下げ』、つまり農家のケースで言えば野菜の値下げを強制するという形でしわ寄せが来るものと予想されています。

想定のケースでシュミレーションしてみよう。例えば月20万円をウーバーイーツ配達員で稼ぐ個人事業主は、所得税、住民税、国民保険、国民年金など公的負担を引くと、手取りは月16万円になる。

しかし、課税事業者になってしまった場合、簡易課税制度(運輸業・第五種50%控除)を利用したとしても、年間の消費税納税額は10万9000円程度になり、月額では15万1000円までに手取りが減ってしまう。負担感は大きいものとなりそうだ。

引用元:現代ビジネス(講談社)

まとめ

いかがでしたでしょうか。分かりやすくする為にかなりザックリした表現ですが、少しでもお役に立てたら幸いです。まとめてて思ったんですがこれって要は消費税の大増税ですね。

冒頭で「フリーランスや個人事業主がみんな死んじゃう」って書きましたけどホントその通りな気がします。現代ビジネス調査によると、インボイス導入後は廃業を検討している業者が全体の7%以上にまで上るとか。

免税事業者に大きな影響が出る…と書きましたが既存の課税事業者や一般消費者も少なからず影響はします。例えばまた八百屋さんのケースで説明すると、八百屋より農家の方が強い立場だったとしましょう。

八百屋「適格請求書くださぁい!」

農家「ああん?そんなもんねえよ!イヤなら取引するな!」

八百屋「うぅ…10万円損するけど我慢するしかないのか。でもそれじゃやっていけない…そうだ!お客さんに売る野菜を10万値上げすればいいんだ!

…こんな風に一般消費者にしわ寄せが来る可能性も十分あります。

ゾンビ企業を淘汰して新しい競争社会を作り出すという点では良いことなのかもしれませんが、実際問題として毎日細々と営業しているような個人事業主はコロナ禍の上でオーバーキルされてしまうんじゃないでしょうか。

どうにも『弱い者いじめ』にしか見えない制度ですが、国の莫大な借金を返す為には必要なんですかね…。

インボイスが消費税を産むなら、みんな死ぬしかないじゃない!
あなたも、私も…。