マーダーミステリーのトリックを作る時に気を付けるべきこと
皆さん、突然ですけどマーダーミステリーをやってて『なんじゃこのトリックは!』って不服に思ったことはありませんか?
私はそれなりにあって、例えば犯人しか知らない隠し通路があったとか、子供がナイフで刺した(現実的に考えて無理がある)とか体験したことがあります。
まぁ文句を付ければキリがないので広い心で楽しむのがストレスを溜めないコツですが、有料作品だと思わず金返せ!って言いたくなっちゃうこともあるんですよねw
まあ私の作ってるシナリオが全部金返せ!レベルなので人様の作品にケチつけられる立場でもないんですが。(無料公開なので正確には『時間返せ!』か)
そこで今日はですね、自戒も含めてあらためて、マダミスのトリックを作る時に気を付けるべきこと、やっていいこと、悪いことについて考えてみたいと思います。
ノックスの十戒
トリックを作る際に守るべきノックスの十戒はミステリ好きの間では常識です。但しこれらの十戒はノックス自身が真面目に書いたものではなく、『こんな推理小説あったら嫌だね』という気持ちで面白半分で書いたとも言われています。実際、ノックス自身が書いた小説もこの十戒を破っているものが存在します。それでは紹介しましょう。
- 犯人は、物語の当初に登場していなければならない
- 探偵方法に、超自然能力を用いてはならない
- 犯行現場に、秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない
- 未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない
- 中国人を登場させてはならない
- 探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない
- 変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない
- 探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない
- サイドキックは、自分の判断を全て読者に知らせねばならない
- 双子・一人二役は、予め読者に知らされなければならない
5番目の『中国人を登場させてはならない』は何の人種差別やねん、って思いますが、これは当時、中国人が悪役として登場する低俗なスリラー作品が横行しており、中国人が半ば超人扱いだったからだそうです。(どんな時代やねん)
要は言い換えれば、『超能力者を登場させてはならない』ということになるでしょうか。
9番目の『サイドキック』は主人公の相棒役のことを指します。つまりシャーロック・ホームズで言うワトソンですね。相棒の判断は読者に透明化しないといけませんよ、ということですな。
十戒を破ってみよう
即席ですが、十戒を破りまくってマダミスシナリオを書くとこんな感じになります。
時は1980年。ヤクザ組織である『双竜会』の事務所で組長が殺された。死因は絞殺。疑いをかけられたのは組員6名。組織が組織だけに警察に頼るワケにはいかない。自分たちで事件を解決しなくては!
…6名が話し合い調査した結果、全く事件は解決しなかった。しかしその時、PL1のサイキックパワーが覚醒し、実は殺人犯は組長の双子の弟で、兄弟しか知らない隠し通路を通って殺害に及んだことが分かった。
殺害方法は組織が新開発していた毒薬で、飲めば窒息し絞殺に見せかけられるというシロモノだったのだ!おしまい。
うん、クソですね。
しかし上のは大げさに書きましたが、犯人が冒頭に登場しないというのはマダミスではアリなんじゃないかと思います。真相が自殺のケースや、行動によって犯人が途中で確定するケースなどですね。一方、『一定時間だけ相手を操る薬』とか『相手を跡形もなく消す爆弾』みたいなビックリアイテムが出て来ると納得しにくいケースが多いように感じます。
マダミスのシナリオ作りで一番気を付けるべきで、且つ大変なのは8番目の『読者に提示されていない手掛かりで事件を解決してはならない』という部分でしょうか。
特に手掛かりカード形式のシナリオなんかですと、運悪く重要な手掛かりを犯人が握りつぶしてしまい、導線が分からず全く事件を解決出来ないケースがあります。重要な手掛かりについては露出する方法を複数用意するとか、予め導線は確保されているが手掛かりはその補強に過ぎない(無くても解決は可能)という作りの方がユーザーフレンドリーでしょうか。
ただあまり導線を確保し過ぎると今度は簡単になり過ぎてしまうので、作者の腕前が試されるところです。ちなみに私のシナリオはその辺かなーり失敗してます。(おい
ヴァン・ダインの二十則
ノックスの十戒は有名ですが、ヴァン・ダインの二十則はご存じでしょうか?
こちらは1931年に発行された『世界探偵小説傑作集』の序文に書かれた、ヴァン・ダインという人が考案した推理小説を書く上での掟です。性質上、ノックスの十戒と重複する部分も多いのですが、ご紹介したいと思います。こちらは大まじめに書かれてます。
- 事件の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはならない。
- 作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない。
- 不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない。ミステリーの課題は、あくまで犯人を正義の庭に引き出す事であり、恋に悩む男女を結婚の祭壇に導くことではない。
- 探偵自身、あるいは捜査員の一人が突然犯人に急変してはいけない。これは恥知らずのペテンである。
- 論理的な推理によって犯人を決定しなければならない。偶然や暗合、動機のない自供によって事件を解決してはいけない。
- 探偵小説には、必ず探偵役が登場して、その人物の捜査と一貫した推理によって事件を解決しなければならない。
- 長編小説には死体が絶対に必要である。殺人より軽い犯罪では読者の興味を持続できない。
- 占いや心霊術、読心術などで犯罪の真相を告げてはならない。
- 探偵役は一人が望ましい。ひとつの事件に複数の探偵が協力し合って解決するのは推理の脈絡を分断するばかりでなく、読者に対して公平を欠く。それはまるで読者をリレーチームと競争させるようなものである。
- 犯人は物語の中で重要な役を演ずる人物でなくてはならない。最後の章でひょっこり登場した人物に罪を着せるのは、その作者の無能を告白するようなものである。
- 端役の使用人等を犯人にするのは安易な解決策である。その程度の人物が犯す犯罪ならわざわざ本に書くほどの事はない。
- いくつ殺人事件があっても、真の犯人は一人でなければならない。但し端役の共犯者がいてもよい。
- 冒険小説やスパイ小説なら構わないが、探偵小説では秘密結社やマフィアなどの組織に属する人物を犯人にしてはいけない。彼らは非合法な組織の保護を受けられるのでアンフェアである。
- 殺人の方法と、それを探偵する手段は合理的で、しかも科学的であること。空想科学的であってはいけない。例えば毒殺の場合なら、未知の毒物を使ってはいけない。
- 事件の真相を説く手がかりは、最後の章で探偵が犯人を指摘する前に、作者がスポーツマンシップと誠実さをもって、全て読者に提示しておかなければならない。
- 余計な情景描写や、脇道に逸れた文学的な饒舌は省くべきである。
- プロの犯罪者を犯人にするのは避けること。それらは警察が日ごろ取り扱う仕事である。真に魅力ある犯罪はアマチュアによって行われる。
- 事件の結末を事故死や自殺で片付けてはいけない。こんな竜頭蛇尾は読者をペテンにかけるものだ。
- 犯罪の動機は個人的なものが良い。国際的な陰謀や政治的な動機はスパイ小説に属する。
- 自尊心(プライド)のある作家なら、次のような手法は避けるべきである。これらは既に使い古された陳腐なものである。
- 犯行現場に残されたタバコの吸殻と、容疑者が吸っているタバコを比べて犯人を決める方法
- インチキな降霊術で犯人を脅して自供させる
- 指紋の偽造トリック
- 替え玉によるアリバイ工作
- 番犬が吠えなかったので犯人はその犬に馴染みのあるものだったとわかる
- 双子の替え玉トリック
- 皮下注射や即死する毒薬の使用
- 警官が踏み込んだ後での密室殺人
- 言葉の連想テストで犯人を指摘すること
- 土壇場で探偵があっさり暗号を解読して、事件の謎を解く方法
いやぁ、ノックスの十戒と違ってこっちは指摘がなかなか痛烈ですね。あくまで推理小説を書く上での規則なのでマーダーミステリーには合わない部分もありますが、参考になります。
例えば3番目のラブロマンスの部分ですね。マーダーミステリーはその性質上、よく浮気や不倫などの恋愛要素が絡んで来ますが、それが前面に出過ぎて『え?殺す必要まであった?』って感じさせてはならないってことですね。とはいえ、例えばアガサクリスティーの『情婦』なんかはこの辺非常に上手く取り扱ってるんで、全くダメということでもないと思います。
あとは14番目の科学的なトリックであること、なんかも参考になりますね。しかしマーダーミステリーではいわゆる勇者モノ、魔法を使ったファンタジーで面白いシナリオなんかもありますので、空想科学的なものがNGってことでもないかと思います。重要なのは魔法を使うトリックなら、その魔法がどんなものか分かりやすく事前に周知されていることでしょう。
二十則を破ってみよう
というわけで二十則も破りまくるとどんな感じのシナリオになるんでしょうか。即興で書いてみましょう。
主人の招待によって『黒死館』へと集まった男女5人。一行は招待目的を明かされないまま歓待を受けるが、翌朝、なんと主人が自室で死亡しているのが見つかる。犯人はどう考えても5人のうちの誰かである。警察は天候の関係で2日後にしか来られない。さあ…自分たちで犯人を見つけよう!
調査した結果、犯人は男女2名の共犯。この2人は黒死館の使用人とメイドであり恋愛関係に陥っていた。主人の遺産を狙う為に使用人が主人を手にかけ、メイドがこっそりそれを庇っていたのだった。
殺害方法は使用人の合図で対象を襲うように密かに訓練された飼い犬をけしかけるというもので、これは主人のダイイングメッセージ『大の字に点』という情報から明らかになった。
犯行が露呈した使用人とメイドは、あの世でも一緒になれることを願いながら崖から身投げするのであった…。完。
うん…。
うん…?
割とアリじゃね?
なんか書いてるうちに作り方次第では結構アリなんじゃないかと思っちゃいました。単純な推理のみならず情報の符号がメインになるマーダーミステリーの自由度ならでは…。いややっぱダメか?冷静に考えたら『大の字に点』とか書いてる暇あるなら犯人の名前書けよって感じですもんね?
まとめ
ノックスの十戒、ヴァン・ダインの二十則を足掛かりに、マーダーミステリーのトリック(というか脚本)を作る際に気を付けなければならないことを書いてみました。
ちなみにミステリーの世界ではこの他にチャンドラーの九命題というルールもあります。奥が深いですね。
しかしこう書いてみると、やはり推理小説とマーダーミステリーって全然別物なんだなという気がします。そもそも推理小説は基本的に一人の犯人へと導かれるように作られることが多いですが、マーダーミステリーの場合は犯人が浮き彫りになり過ぎるとゲームとしてはつまらない展開になることがしばしば。基本的に犯人役が辛いシナリオはあまり評価されない印象があります。なので、最終的には2択に絞られるくらいがちょうどいいんじゃないかと思います。
また、マーダーミステリーはあくまでパーティーゲームの一種であって読み物ではないので、情報さえしっかり開示されているのならば突拍子のないトリックや現実離れしたシナリオ(ファンタジーとか)も受け入れられるんじゃないでしょうか。
なんだかこういうの書いてると新しいシナリオを作る意欲が湧いてきますね。私もシナリオ作家としてはゴミ以下ですけど、精進してヒット作を作ってみたいものです。
今日はここまでだわさ
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