貧困化が止まらない原因を噛み砕いてみる

コロナも大分状況が落ち着いて来ましたが、日本は一向に貧困化が止まる気配がありません。一体どうしてこんな状態が続いているんでしょうか。つらつらと書いてみました。

日本は経済成長率が低い

他の記事でも何度か書いていますが、日本は1995年から経済が成長していません。それどころかマイナスというありさまになっています。

経済成長というのは具体的に言えばどういうことなんでしょうか。例えば、とある工場が毎日おにぎりを作ってそれを売っていたとします。手作業でおにぎりを握って売るので、せいぜい一日300個くらいが限度だったとしましょう。

そこへ、自動でおにぎりを作ってくれるロボットが発明されてそれを導入したとします。そうすると一日1000個まで作ることが出来るようになり、たくさん売ることが出来るようになりました。

これが経済成長です。(人件費とか設備投資とか細かい話はさておき)

おにぎりをたくさん作って売れるようになると、もちろんお金もいっぱい儲かります。そのお金は工場で働く社員の給与になり、社員の人たちはちょっといい車を買ったり、ニンテンドースイッチを買ったり、豪華なディナーをして贅沢するようになります。

そうすると今度は自動車を売る人や任天堂やレストランが儲かります。更にそうなると任天堂の社員やレストランのウェイターがお金持ちになって、高級なおにぎりを買って贅沢したりします。

このように経済というのは、みんなが少しづつお金持ちになってお金を使い、商品を段々値上げすることで成り立っていきます。(この値上げするというのは経済にとって非常に重要です)

しかし日本はWindows95を使っていた時代よりみんな貧乏になっているのです。世の中はどんどん便利になって仕事に使うツールも増えているのに、不思議ですよね。

食に現れる貧困

貧乏さがダイレクトに現れるのは、ずばり日常の食事でしょう。例えばローソンは50万食の大ヒットをあげた200円の『ウインナー弁当』を皮ぎりに、おかずがミートボールだけの『ミートボール弁当』を新たに発売しました。

これを『200円!?なんてオトクなんでしょう!』と思うか『こんなネコの餌みたいなのは要らない』と思うかです。ニューヨークで毎日2000円のランチを食べてるアメリカ人なら間違いなく後者でしょう。しかし現代の日本人は悲しいかな、こういった弁当が飛ぶように売れる状態なのです。

中国の内陸では焼き鳥が一本1~2円くらい。お酒も10円くらいで売ってて食費がめっちゃ安いんですが、このままマイナス成長が続けばそのうち中国人が逆に日本に来て『弁当200円!?安いアルー!』と騒ぐ日も近いでしょう。

 今年9月に20歳の誕生日を迎えた加藤晴菜さん(仮名)は、青森の実家を飛び出し、4か月前からシェアハウスで暮らしている。

 未成年でなくなり保護者の制約が軽くなったことで、来月からアルバイトを始めるが、すでに所持金はゼロに近い。生理用品を買うために節約し、食費が月700円という生活が入居時から続いている。

「8枚切りの食パンを、昼と晩に1枚ずつベッドの上で食べています。何でもいちいちダメ出しする毒親で、男性にも騙され、正直自分が幸せになれるはずがないという気持ちが強いし、自分の人生への期待も低い。今は、雨風を凌げる屋根と床さえあればいいかなって感じ。強いて言うなら、“雪見だいふくみたいなパン”を食べたい」

引用元:Yahooニュース

しかし値上げは続いている

先ほど、経済成長に商品の値上げは重要と記載しましたが、今の日本でモノを値上げするのはちょっと違和感がありますよね。200円の弁当が喜ばれるほど貧乏な時代なのですから、既存の商品が値上がりしたらみんな買わなくなります。それは売る側も分かっています。しかし、実際には色んな商品は値上がりしています。

このように堂々と『値上げします』と公表してるならまだマシで、昨今では『ステルス値上げ』なんて呼ばれますが、パッケージの見た目はそのままにサイズが小さくなったお菓子や、具をケチったサンドイッチ、底上げ容器で量が少ないことに気づかせない弁当なんかが盛んに登場しています。

なぜ値上がりするのか

簡単に言えば、日本以外の世界の国が豊かになっているからです。他の国の自動車会社やおにぎり工場は値上げしてもどんどん商品が売れるので高値をつけます。日本はそこからヒイヒイ言いながら自動車やおにぎりを買わなくてはいけません。『買わなきゃいいじゃない』って思うかもしれませんがそうもいきません。それが輸入の問題です。

例えば、日本はお米は国内でたくさん作れますが、島国で山が多い地形なので小麦などを作るのには向いていません。その為、小麦の多くはアメリカ諸外国からの輸入で成り立っています。小麦がないとパンが作れませんから、パン屋は小麦を高い金額でアメリカから買います。

高い原価で購入した小麦でパンを作っても、そのパンの値段が据え置きだったら破産してしまいますから、パンを値上げせざるを得ません。これが貧困化が進んでいるのに商品が値上がりするプロセスです。

事実、同じように輸入に頼っている乳製品やガソリンはどんどん値上がりしています。このように経済が成長していないのにモノだけ高くなってしまう状態をスタグフレーションと言います。

経済成長を妨げるもの

高齢化社会に伴う増税

スタグフレーションを打破する為に、根本的には日本がGDPを上げて経済成長を目指すしかないのですが、それを妨害する要因となっているのは何なのでしょう。一つは各種税金の増税が挙げられます。

日本はどんどん高齢化が進んでいるので、老人に支払わなければならない年金や社会保障費がどんどん嵩みます。そうすると国のお金が枯渇するので、政府は税金を上げてお金を集めなければなりません。身近なものですと消費税が10%に引き上げられたばかりですよね。

消費税が増えるとそれまで安かったものが高くなって、たくさん買うことが出来なくなります。これにより消費が落ち込み、自動車会社やおにぎり工場が貧乏になっていくのです。

1995年は缶ジュースが一本110円、タバコは100~250円でしたが今は缶ジュース150円、タバコも度重なる増税で500~600円にまでなっていますね。

少子化

経済成長を妨げる要因として、少子化も大きな原因となっています。日本はご存知の通り一年間に生まれる新生児の数が80万人台にまで減少しています。これは約50年前のベビーブームの際に200万人を超えていたことを考えるとすごい減り方です。

じゃあなんで少子化なの、というと理由は様々ですが一言で言えばここでも貧困が関係して来ます。昔は男性の年収だけで十分やっていけましたが、今は共働きじゃないと養育費なんて稼げません。でも日本の社会は世界トップクラスで女性が働きにくいので、誰も結婚しない。もしくは結婚しても子供を作らないのです。極端な話、貯金が一億円あったらみんな結婚して子供を作るはずなんです。

また、年間二万人以上という先進国の中でトップクラスの自殺率も見過ごすことが出来ない要因です。せっかく子供を作っても若者が死んでしまっては意味がありませんからね。そして自殺の原因も約13%が『貧困によるもの』なのです。悪循環ですね。

ゾンビ企業

日本人独特の感覚といいますか、保守的といいますか、変に優しいといいますか、国内にゾンビ企業が大量に存在することも課題の一つです。ゾンビ企業というのは『本来なら倒産するはずが、銀行や国の支援でなんとか生き延びているボロボロの企業』のことです。

身近な例で言えばダイエーですね。かつては日本一の流通企業であり、野球チームを作ったり遊園地を作ったりと飛ぶ鳥を落とす勢いでしたが1990年頃から業績が悪化。理由は儲からない支店をいつまでもそのままにしておいたからです。

そのまま倒産に向かうはずが、9万人を超える従業員が路頭に迷うのを防ぐ為に産業再生機構が支援に入りイオングループとしてなんとか首の皮をつなげました。ダイエーの他にはカネボウやいすゞ自動車がゾンビ企業の例です。東日本大震災後、本来は倒産するはずだった東京電力なんかもゾンビ企業の部類に入ります。これらの企業は社会の自然淘汰を妨げて不健康にします。

分かりやすく言うと、狼の群れの中に年老いて怪我した狼がいたとしましょう。フツーであれば可哀想ですがその老狼はそのまま死に、若い狼が新しい群れを作ったり子供を作ったりして世代を受け継いでいきます。つまり自然淘汰です。

しかし『老狼が可哀想だからみんなで助けよう』ということになったら、若い狼が新しい群れを作れなくなったり、子供の狼が自分のエサを分け与えたりしなくてはいけなくなります。このように変に優しくすることで結果的に群れ全体の首を絞める結果になるのです。これがそのまま日本社会で起きています。

海外ではこの辺はドライで、潰れそうな会社はとっとと潰れろって感じですし使えない社員はどんどんリストラします。流動性が高いのです。リストラって言葉は悪い印象しかないですが、クビを切られた社員が別に天職を見つけて才能を発揮することも往々にしてあります。日本もこの辺は海外を見習わなくてはいけません。会社を潰すのは悪ではないのです。

貧困化を打破する為には?

貧困化、すなわちスタグフレーションを脱却する為にはどうすればいいのでしょう。これは霞が関のお偉いさんがみんなで悩んでいるテーマです。一説には『日本の低所得者は薬物や暴力に走ることはなく勤勉でスキルも高い。しかし貧困化が進んでいるというのは世界で非常に稀な例で、まさしく政策の失敗が全ての原因と言える』と言われています。

一番分かりやすくて有効そうなのは、『過去の事例を参考にする』ということですね。世界には日本と同じようにスタグフレーションにハマりましたが復活した国があります。(たくさんは無いですけど)

イギリスのケース

イギリスは第二次世界大戦後、手厚い福祉政策が実施されて来ました。スローガンは『ゆりかごから墓場まで』です。分かりやすい例では医療費が常に無料でした。しかしこの手厚い福祉政策は国の財政をめちゃくちゃ圧迫しインフレ(値上がり)と失業者まみれになったのです。今の日本と似ていますね。

そこで登場したのが『鉄の女』の異名を持つマーガレット・サッチャー首相です。彼女は国がお金を出して運営していた水道、電気、ガス、通信、鉄道、航空などの事業を民営化しました。そして所得税を減税して代わりに消費税を増税。また金融市場などに外国の参入を許して競争率を高めました。つまり狼の群れに他の狼をぶち込んで争わせたのです。

その結果、不況は長期化したくさんの人が仕事を失い、失業率は更に悪化。10人に1人が会社をクビになるという恐ろしい事態になりましたが、企業の生産性は高いところで70%も上昇しました。またインフレも大分落ち着きました。

その後、サッチャーは労働階級などからの批判を受け政権を交代しましたが、各種インフラを民営化したおかげで国の負担は減り、イギリスの経済は蘇りました。現在のイギリスはサッチャーの手法を真似ながらも、少しづつ悪かったところを改善していく形で成り立っています。

強者を弱くすることによって、弱者を強くすることはできない。

マーガレット・サッチャー

アメリカのケース

アメリカも1979年の第二次オイルショック(原油価格の高騰)に伴い長らくスタグフレーションに陥っていました。そこで登場したのがレーガン大統領で、彼は俗に『レーガノミクス』(アベノミクスの元ネタ)と呼ばれる政策を打ち出しました。

彼はまず、サッチャーと同じように政府の無駄遣いを抑えるようにしました。軍事費だけはレーガンの好みで上昇(まあ冷戦下だったししょうがない)しましたが、これにより福祉関連をメインに414億ドルの支出を削減出来ました。

また、インフレの原因は高い税率であると考え、多くの減税を実施しました。税金を減らすことで国民の貯金が増えて、それが投資につながり景気を刺激すると考えたのです。また、労働者の労働意欲も高まると考えました。お金がいっぱいもらえるようになるならやる気が出ますから、当然ですよね。

更にイスラエルからの輸入品を全て免税するという『米国・イスラエル自由貿易協定』を結び、自由貿易を推し進めました。

結果、レーガンの政策もバラ色の計画通りには実行出来ず実際は失業率の悪化や減税し過ぎたことによる財政赤字の増加を露呈してしまいましたが、原油価格が落ち着いたことも相まってインフレの抑制には大きく効果を上げました。これにより徐々にアメリカの経済は復活していったのです。

それはあなた達の常識であって、私の常識ではないんですよ。

ロナルド・レーガン

さいごに

経済学者のポール・クルーグマンは2015年、日本に対して『急速な円安のマイナス面が表面化し、物価が上昇している。それに対して賃金の上昇が追いついていないために、スタグフレーションに陥りつつある』とコメントしています。

イギリスやアメリカの解決事例はそれぞれの時代背景が強く表れるので全て真似すればダイジョーブというワケには行きませんが、日本銀行はこのクルーグマンの意見をとても参考にしていると言われています。

安倍首相は俗に言う『アベノミクス』でNISA(少額なら税金がかからない投資制度)などの『3本の矢』を取り入れ、一定の成功を収めています。クルーグマンもアベノミクスは賞賛しました。しかし最近では、このNISAに税金をかけるというような本末転倒な話も出ています。

江田氏は28日のBSフジの番組で、党が主張している金融所得課税強化の議論のなかで、司会者から「低所得者や中所得者が積み立て、運用している部分に対して同じように30(%の課税を)かけるのか」と聞かれ、「同じようにかけます」と答えた。米国などと比較して「過大なことではない」などと発言した。

 江田氏は党の経済政策調査会の会長で経済政策の責任者。立憲は「再分配」の一環として富裕層への課税を強調していただけに、江田氏の発言に対し、ネット上では「中間層のサラリーマン投資家を狙い撃ちにしているのか」などと批判が相次いだ。

 江田氏は29日午前、自身のフェイスブックで「課税しようという趣旨ではない」とした上で、「舌足らずの発言で誤解を生じたことについては深くおわびする」と謝罪した。また29日午後のTBSのラジオ番組で「(司会者との間に)ついたてがあり、質問を誤解した。聞き間違えた」とも語った。

引用元:朝日新聞

少子化が悪いのか、労働意欲の低さが悪いのか、高い税率が悪いのか…。私は経済学は学んでいないので打開策は浮かんで来ませんが、生きているうちに長らく低迷する景気が回復するところを拝みたいものです。

空から100万円降ってこないもんかねー